「兌換銀行券條例改正」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「兌換銀行券條例改正」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

兌換銀行券條例改正

政府は兌換銀行券條例中第二條及び第八條を改正し一昨一日を以て之を發布したり聞く所に據れば目下政府發行の紙幣の額は五千二百萬圓餘銀行紙幣は二千七百萬圓、兌換銀行券は五千萬圓にして合計一億二千九百万圓餘なりと云ふ明治十八年六月政府は發行の紙幣を漸次に銀貨に交換すべき旨を布告したるを以て假令へ其交換は紙幣所有者の需に應ずるにあらずして政府の都合に由り試行するものなるも已に銀紙の其價を一にせる今日に在ては政府の紙幣も銀行の紙幣も容易に兌換券と交換し得べきことなれば不換紙幣の名あるも其實は兌換券に異ならず又これまで紙幣の紙質替へ改描を施す等の事情に由り次第に通貨の種類を多くして流通上不便を感ずるも募からざることなれば政府が漸次に其發行紙幣を引て再發を止め國立銀行も營業滿期の後は更に發行することを許可されずして其代りに日本銀行が兌換券發行の特典を蒙り行く行くは全國の紙幣をして悉く同一種類の兌換券となすの目的にて兌換券の引換準備を正金準備と證券準備の二種に分ち金銀貨及び地金銀を以て正金準備となし之に對して發行せしむる兌換券は別に法律にて其額を制定せず貿易の景況にのみ一任して輸入の輸出に超過し隨て金銀の外出して自然日本銀行の準備金も減少する時は兌換券の發行を減縮し之に反する塲合には之を増伸して兌換券の流通額と日本銀行の正金準備の高とを常に同一ならしめ別に政府發行の公債證書、大藏省證券其他確實なる證券又は商業手形を保護即ち證券準備として七千萬圓を限り發行せしむることになりたる其大體便利の旨趣は我輩の大に賛成する所なれども永年の通用萬々安全のものなる可きや否やの問題に至りては今日尚ほ未だ明言し得ざる所のものなり或人の所見に我邦是迄の經驗にて銀紙の間に差を生じたるは流通紙幣の額一億三千萬圓以上に達したる後のことにして今度の七千萬圓は殆ど其五分の三に當る割合なり且政府の歳出入は七千萬圓に超過するを以て若しも準備の正金が悉く外出して内國の通貨は單に證券準備の兌換券のみとなり正金の引拂に應ずる能はざる極端の塲合に立至るも事の要用よりして紙幣即ち兌換券の價格を落すことなかる可しと云ふ自から一説なれども外國貿易の影響は至大なるものにして今後我輸出入の釣合ひ、内國人起業の状況、又は官民の事業、生活の進退高低に從ひ外の勢力に〓られて内の財政に非常の變を生じ遂に之を守ること能はざるの塲合もある可し〓〓注意用心して然る可き〓〓なり〓右七千万圓の内二千七百萬圓は〓〓に發行〓〓〓〓紙幣の空〓を〓〓せしめ二千〓〓萬圓は政府發行の紙幣を消却〓る爲め政府に貸上へしむる都合にて政府は之に對して明治三十年を限り年百分の二即ち四十四萬圓の利子を年々銀行に拂ひ同三十一年後は無利子となす其譯は元來銀行紙幣は明治三十年後に至らざれば消却濟とならざるを以て日本銀行が同年迄に發行すべき兌換券の金高は年々僅に百餘萬圓に過ざれば夫より生する利益も薄く且從來政府は手數料を下附して日本銀行をして國庫金の取扱をなさしめたれども右手數料は今後廢するとも云ひ且兌換券の製造費は凡そ六十萬圓を要する豫算なれば殆ど一箇年半の利子は之に費さざるを得ざる等の事情より斯く莫大なる利子を拂ふとのことなれども其事情は兎も角も日本銀行が兌換券發行の特典を受けたる其上に明治三十年に至るまで毎年四十四萬圓の大金を國庫より受取るとは實に株主の利益にして其金の出所は詰り國民の納むる税金より外ならず又日本銀行が市塲の景況に由り流通貨幣の增加を必要と認めたる際大藏大臣の許可を經て兌換券を發行する其高に百分の五以上の税を納めしむる其理由は金融壅塞の際は自然金利も騰貴すれば五分以上の税を納め得べきも漸く緩慢となる時は金利も下落して之に堪ふる能はざれば兌換券を回収するに至るべしとの見込ならんなれども日本今日の金利の有樣は果して正當なるものなる歟我輩は其然らざるを信ずるものにして日本銀行の利子は一般の金利の高きにも拘はらず常に其低きに驚くものなれば五分以上の税は之を負擔するに左までの苦勞はなかる可し兎に角に今回の改正は理財の一大改良にして其大體に就ては我輩の賛成する所なるのみならず兌換券の發行額及び交換準備に關する毎週平均高表を官報に掲けて世上に廣告する事としたるは文明政府の處置と云ふべきなり