「農商務省」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「農商務省」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

農商務省

〓般井上伯が農商務大臣に任ぜられたるに付き其商(七月廿六日)の紙上に一言を記し結局我輩の意見は大〓が種々樣々の新案を〓らして事を多くせんよりも繁を去り簡に就かんことを所望したるものなれども其立言〓から〓極の意味を含むが如くに聞こえて世人或は鄙言を誤解し記者は井上大臣に望むに無爲自得を以てする者なりと思う者なきを期す可からず左りとは不本意千萬のことにして我輩は大臣をして無爲ならしめんと欲せざるのみか有爲活〓にして朝野の耳目を驚かすなどに〓動せんことを冀望するものなり本來農商務省は日本國中の農商を管理し其利益を謀る爲めに設けたる官省なり而して一國有形の〓歩は國民の殖産に依頼すること固より爭う可からざる事實にして本省の一擧一動は國脈の由て以て榮枯を致す所のものなれば斯る大切なる官省にして其長官たる者が無爲自得して相濟む可きや片時も猶豫なく活動す可きのみならず伯が畢生の力を盡すも我輩は尚お其足らざるを恐るゝ者なり〓農商殖産の利益を謀るに當り爰に二樣の方法ある其一は新案を〓らして新利益を興すものと又一法は〓徃の政略中に就て舊利益の妨害たる政令を改め又〓來にも之を防禦して農商の業務を保護するものと是れなり事柄と塲所とに由りては二法共に必ずしも善きにあらず又惡しきにあらざれども數年來農商務省の政略を窺うに専ら新利益を興すに汲々として新案を〓らし新法を設けたるは少なからざれども農商の舊利益を保護する一〓に至ては或は〓憾なきを得ず尚お況んや其新利益を興す〓動に〓れて偶々舊利益を失い利害相半するを得ずして客の方に餘剰を見るものさえあるに於てをや彼の有名なる十州〓田〓又はブールスの始末の如き此中に數えらる可きものならん然るに利益保護の方面を見れば〓年續々出現する新税法に就き本省が特に出〓の議を呈して之を云〓したる沙汰を聞かず抑も政府が國民に税を課するは國用に供するが爲めなりとは云へども其際限は民の實力を標準にする外ある可からず即ち國民の此部分に此税を課して其殖産に影響する所は如何なる可きや三五年は其税の〓入を以て國庫を富ますに似たれども永〓は〓に殖産の源を涸らす可き愚はなきやと反覆その〓に注意し農商務省は國民の殖産を保護する職務を以て大に論ずる所ありて然る可き〓〓ならん〓税は固より大藏省の〓に在りと雖ども〓〓〓の〓命を〓〓して〓〓に〓の富源を管〓するは〓〓〓〓有の義務なれば〓方面より立言して至當のことなる可し〓に新税法の可否を論ずるのみならず〓に定まりたる税法にても之を課するに時節の遲〓と手數の繁簡とに由りて民業に利害すること甚だ大なるものなれば是れ亦黙々に附す可からず其他〓來の問題たる登記の實施法は如何す可きや、地押調査は如何して簡便なる可きや、〓路改修に民力を費すは何れの〓に止まりて〓當なる可きや、市街取廣げの外見に軒先きを切棄すは市民の家業に害あるや〓きや、戸籍の調査、死生婚姻、旅行轉居、雇人の出入、旅客の止宿等千差萬別無限の願届に手數を煩いし筆紙墨を費すは固より地方の施政警察の要用に出たることにして是等は都て其主務の官なる可きなれども殖産保護の本部たる農商務省が恰も日本全國の農商民を代表して細に利害を吟味するときは繁を去り簡に就き事實に損する所なくして民家に益するもの多きを發見す可きは固より明白なる所なれば百方に之を論破して農商の實益を謀るは本部主務省の義務として辭す可からざる所のものなり

以上陳る所は尋常一樣の説にして民間に普〓なるのみか官〓の人と雖も個々の私に於ては之を言わざる者なし然るに農商保護の主務省に於て今日に至るまで其議論の鳴るを聞かざりしは政府全體の内實に無限の細事〓ありて政策の斷行を妨げたるが故ならん細事〓は猶お雑草の細根の如く毎條これを見れば至極軟〓なるものなれども縦横無盡に錯綜するときは利刀も之を斷つに苦しむこと多し我輩を以て見れば井上伯は今日の爲政家中利刀の最も利なるものなれば其農商務の任に當りたるこそ幸なれ百般の細事〓を切拂い先ず大に民の殖産を保護守衛して本省の本色を輝かし次いで新利益の新案に及ばんこと偏に祈る所なり