「英佛獨三國の太平洋占略(前號の續き)」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「英佛獨三國の太平洋占略(前號の續き)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

佛國が太平洋に領地を拓かんと欲して始て占略を行ひたるは今を距る四十六年以前の昔なれども當時の佛國は今の如くパマナ運河の開〓と共に地球上通商の航路全變するを慮りて軍港を作らんなど切迫の考ありしに非ず唯國威を輝す爲め好事心より時に占領の策を用いたるに過ぎざれば四十年來の成績に見る可きものも隨て少なく彼の獨逸國が四年以前俄に運動を始めたるが如き勢にあらざりしは固より咎む可からず盖し太平洋中の重なる佛領地はニユーカレドニヤ及びローヤールテーの諸嶋に過ぎずして其面積は僅々五千平方理、人口六萬一箇年の貿易總額百六十萬圓を超えずと云ふ元來佛國の殖民政略は罪人を移して開拓に用る慣行にしてニユーカレドニヤの如きも最初は全く罪人の追放塲なりしに兩來漸く人口の〓加するに從て改めて殖民地となしたるものに過ぎず斯る次第なれば佛の殖民地には眞に土地の開拓を以て自から任ずる移住者とては甚だ少なく唯無頼の罪囚どもが監守人の〓杖の下に勞役する者のみにして之が爲めには初費多くして功績擧らざるものか其罪人等が時として他嶋に〓逸して煩を人に嫁せしめ以て國交際の不都合を釀すことなきにあらず〓に先般も濠洲諸嶋英領の人民は佛領の罪人が英領に害を及ぼすこと甚だしとて本國政府に迫り佛國に向て今後濠洲近傍に罪人を放つ可からざる旨を懸合はしめたることあり然るに今日に至りては佛國も右の如き不策の手段にて英獨二國の爲めに大に先んぜられたるを悟りたるが故に今後は政略を一變して以て多年の失錯を償ふ決心なりとのことなれば其太平洋に於ける運動は遠からず世人を驚かす者ある可しと云ふ

現時佛國の所領はニユーカレドニヤ群嶋の外にマルケリー、タムツー、ソサイヲー、ツブアの四群嶋あり又タムツー群嶋の南東にマンガレヤと〓する嶋あり〓内、船の碇泊に便利なればとて嚢に占領したれども尚ほこれに〓かざるか數月前更にサモア、フイジー の中途に在るウオーリス嶋をも併せたる由又其近傍ヘルビーと〓する群嶋は土地非常に狭くして總面積四百平万哩に過ぎざれどもパナマより濠洲に通ずる線路の中間に當りて最も要衝なるが故にこれに石炭港を作る目的にて該嶋の首長ララトンガなる者を懐け全嶋を佛國保護の下に置かんと欲して昨今其手段最中なり又ニユーカレドニヤの西北一百英里の處にチエスタルフエルドと〓する群嶋ありて數年前〓に佛の所領に〓し又パナマより西北二百英里なるクリツバートン嶋も今日佛人はこれを自領と公言して憚らざれども未だ其主權を爭ふ者あらざれば是れも無論佛領に属す可し最後にニユーヘブリツヂは昨年中英國と約を結び之を中立となすに決したれども其實際を伺ふに土地の所有權は〓に佛人の手に〓し商賣交易も〓ね佛國の船舶に依る者なれば今日にても之を中立と云はんより寧ろ佛領を〓すること至當ならん隨て未來の運命知る可きのみ

獨逸の太平洋占略は甚だ後れ馳せの手段にしてパナマの工事着手と殆ど其年月を同うし今に四五年を經過したるのみなれ共ニユーギーネ、ソロモン(但し孰れも其全部に非ず)ブリテン、マーシヤルの諸群嶋總面積十萬平方哩の地を占領し特にソロモン、ブリテンの兩嶋は太平洋中最良の地勢にして安全なる港〓に乏しからず又ニユーギーテは較一方に偏ずれども地味豊〓なればこれに開拓の功を加へて物〓を〓す望なきに非ずマーシヤル群嶋は地積至て狭しと雖も廣く洋面を占めて嶋勢互に連環し嶋民亦商賣に熟練なれば今後同嶋は獨逸の太平洋貿易に就き重要の位地に立つこと疑ある可からず而して右の外にカロライン、マリアン、ペリユースの群嶋は一に微粒子嶋とも〓する小嶋の脈絡にして今日其主權を握る者は西班牙なれども國力微〓にして保護甚だ屈〓ざれば三強國の爲めに其幾部分を侵掠せらるゝも斷然これに抗する能はざるや明なり〓に先頃も獨逸がカロライン群嶋をマーシヤル群嶋の西部まで擧て併て占領せんと恐迫したる其際にも西班牙の驚愕尋常ならざりしは人の知る所にして今後とても再び其事なきを期せず盖し英人に〓しポリ子シヤ脈の群嶋は主として佛人の據る所と爲りメラ子シヤ脈の群嶋は未だ孰れの專有にも属せずして恰も三國分轄の姿なれども中に就て獨逸の勢力最も盛なるが如くなれば太平洋は〓に三分鼎足を爲したる者と〓して可ならん又太平洋の諸嶋中その實際は兎も角も表向き未だ他に從属せざるものなきに非ず布哇の如き或は下てニユーヘブリツヂの如き更に其小なる者に至てはフイジー嶋の北東部に位するトンガ、サモア〓にフイジー、マーシヤル兩嶋の間に在るエリス、ギルベルト の四群嶋の如き即ち是なりと雖も歐洲の三強國が〓〓して頻に之を〓ふ今日なれば早晩其自主の權を失ふ可きは論を竢たず特に獨逸がエリス、ギルベルト の兩群嶋を併呑しマーシヤル群嶋の南東一面に其版圖を拓かんとする志を抱くは事實に於て明白なれば遠からず實際に果斷の所爲を見ることある可し斯くて其脈を尋て漸く北方に至ればボーニンアイランド(小笠原嶋)より次第して日本支那の近海に其嶋脈を與にする者少からず三強國の太平洋占略は商賣に兵事に今後東洋諸國に非常の關係あらんこと我輩の期する所なり

讀者は以上の紀事を讀むに當り試に太平洋の海圖を〓き彼此參照して一々其嶋名を〓檢したらば無數なる群嶋中、要害有用の地は申すに及ばず微粒子嶋の實用なかる可き者と雖も〓ね〓に三國の有に〓して殆んど殘す所なき事實を發見すべし世界中屈指の三強國が此の如く太平洋を三分して將來に何事を爲す意なるか我日本人も早く之に對する注意ある可きことなり〓(完)