「歐洲に於ける君權民權の運動」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「歐洲に於ける君權民權の運動」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

歐洲に於ける君權民權の運動

過般來の紙上に見えたる如く獨逸新帝は曩に露國に赴きペトロホフに於て露帝に會合したり其席上に何等の相談ありしやは知る能はざれども案ずるにバルガリヤの事件に付き獨逸は露國の要求を入れ且つ露墺兩國との關係をも折合はして歐洲の平和を維持せんとしたるに外ならざる可し斯て獨逸新帝は歸國の後伯林に於て陸軍秋季大■(てへん+「檢」の右側)閲を施行して更に澳地利に赴き墺國皇帝に會合し今回は又羅馬に往て伊國皇帝を訪問せんとするに當り適適羅馬法王の法廳と差縺れを生じければ昨今はビスマルクが其間に周旋して雙方の折合を全からしめんと計畫の際中なるが如し一説に獨逸新帝の露に往き墺に往き又將に伊に往かんとするは即位披露の訪問たるに過ぎず尋常一般宮中の儀式の外に何等の計畫なき者なりと云ふと雖も唯單に儀式上の旅行ならんには人心極めて騷擾たる今の季節を撰まざるも他に安全の機會ある可きに此を捨てて彼を取るは必ず深意なくんばあらず又伊國の宰相クリスピーは特に獨逸に往てビスマルクをフリードリヒスルへの別墅に訪問しクリスピー去て後又墺國の宰相カルノキーも獨相の許を叩き尋でクリスピーは墺國に遊んでカルノキーに會合したり三相一塲にこそ其頭を聚めざれども互に各自の意見を通じて何か打合せのありたる一事は實際隱れなき話〓〓〓〓ち其目的〓三國の連合同盟を〓〓し全歐の〓〓〓〓〓に在りと云へり

右の〓〓〓〓新帝は〓〓伊三國の皇帝に〓〓を試み〓〓〓〓〓〓交る交る〓〓ビスマルクに會見し〓〓〓互〓〓〓〓〓〓に付ては〓人の〓〓尋常ならずし〓〓〓の〓〓〓より破れんと畏るるもあれば或は否〓平和の望み保つべしとて甲評し乙説き人心甚だ洶然たり盖し歐洲今日の有樣は恰も演劇の序幕に均しく發端の趣向は唯後段の伏線を作るに留まり大に人目を眩ますの觀なけれども二番三番より以下漸く幕の頃合に■(しんにょう+「台」)ぶに隨ひ塲裏の戲愈愈出でて愈愈奇なるは疑ふ可からず獨逸帝の訪問より諸宰相の會合は既に其初幕を切て將に二幕三幕に移らんとするの佳境なれば是より歐洲の形勢は次第に劇の妙所に入て其奇觀世界を驚かす者あらんこと人の信じて疑はざる所なり歐州人が近來右の訪問會合の沙汰を聞てより頻に其結果に注目するに至りたるは全く前條の理由にして我輩の如き遠く其利害を異にする者と雖も亦其劇の落着如何に對しては胸畫を描て之を視るを娯むの思なきに非ざるなり

右の如く獨逸帝の訪問諸宰相の來往は和戰孰れの結果を生ずべきや之を卜するは難事なるに似たれども抑も歐州政治の運動を實際に知らんと欲せば第一に列國に於ける君權民權近來の消長如何を察すること大切ならん左れば今日漸く民權の勢力を催ほし君主一人の威權を以て容易に多數人民の希望を左右する能はざるの塲合に於ては列國皇帝の會合も政治上に畏る可きの影響なきは明白なれども之に反し君權獨り鞏固にして和戰の大事も一人隨意の裁斷に係る間は獨逸新帝の列國訪問は此危機を决するに大に力ありと云はざる可らず歐洲中にて英國のみは獨り其趣を相違にして多數の與論常に國是を左右するの因襲あれども大陸諸國に於ては君權民權の爭尚ほ今に熄まずして時に却て君權の増長人を驚す例しなきに非ず例へば三四十年の昔と今とを對照して大陸に於ける君權民權の有樣を視察したらば其成迹想像の外に出ることあらんなれども世人は概ね三四十年前の歴史の反映を今に寫して今時尚ほ往時の如く政治社會の實相は相變らず民權長じて君權消えつつある者なりと判斷し爲めに實際を誤るなきを期せず何となれば世人の目に觸れ耳に慣れたる二三十年前迄の歴史史乘は革命内亂の時限にして當時君權の衰退これより甚しきはなかしりなれ共爾來社會の秩序漸く定まり中央統轄の政行はるると與に共に反働の餘勢より君權次第に其故に復したればなり十八世紀末の佛國革命よりして民權次第に勢を得て尋で千八百四十八年の再亂に會し人民の威力極めて盛大と爲り夫れより十數年は尚ほ其餘炎を享け君權甚だ退縮したりしなれども伊太利の建國事業より獨逸の聯邦帝國設置に及んで君主の勢威頓に増長し爾來此の傾にて民權は却て三四十年の昔より退脚したるや疑ある可らず歐洲近來の政治を知らんと欲せば預め列國に於ける君權民權消長の趣を察すべしと云ふの意も亦これに外ならざるなり

又學者の所説に西洋一般人民の權次第に増加して君主の威力を殺ぎ一國の政治を左右するものは總て輿論にして君主は唯輿論を施行するの機關に了はる者なりとの論あれ共爰に歐州政治社會の内幕に立入りて其實地を伺へば輿論の勢力民權の運動なる者は唯學者席上の空論たるに止まり事の實際に於て政權の在る所を求れば其權力獨り少數者の手に歸するのみならず更に又少數者より一個人に歸するの事實は烱眼なる西洋の經世論者〓〓にこれを説く者あり我輩の不同意なき所なり                  (未完)