「ハリソン氏の政策」
このページについて
時事新報に掲載された「ハリソン氏の政策」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
ハリソン氏の政策
豫て待構へ居たる米國大統領撰擧の結果は別項の電報に見ゆるが如くハリソン氏の勝利となりたるよしなれども其報至て簡單なれば兩黨點數の割合は如何なりしか又其點數の調べは精確にして跡に紛議の起るべき氣遣なきか我輩の最も知らんと欲する所にして特に前前の例に照せば點數調べは常に葛藤の起り易き原因なるが故に一時或はハリソン氏多數を占めたりと定まりながらも反對黨より之れに故障を挾みて却て其爭を飜へすなきを期す可らず要するに撰擧の一事は非常に入組みたる者なれば簡單なる電報に依て其結果は愈愈此の如くなる可しと速丁の斷を下すは暫く我輩の憚る所なれども クレヴランド 氏の人望は就職の初に較べて今日大に劣る所あるの事迹は盖し蔽ふ可らざるなり隨てハリソン氏は其虚に乘じて敵の弱點を衝きたればこそ意外の勝を收めたるならんと思はるることの次第は外ならずクレヴランド氏の政策は關税改良を以てデモクラツト黨議の第一綱領となし大に關税の收入を省て豫て始末に窮し居たる國庫餘剩金の處分を附け又外國よりの輸入品に課したる禁止税の率を緩めて内地の消費者に便利を與へんことを期したるにレパブリカン黨は之れを聴て承諾せずして曰く關税改良の一語は反對黨が吾人を瞞着せんとする造言に外ならず關税改良の文字を使用するときは俗人の耳を驚かさずしてその政策を行ひ得るの望あるが故に陽に斯る曖昧不明の言案を飾り以て其野心を遂げんとするは男子の所業に非ず關税改正の文字を正當に飜譯すれば我國税關の關門を撤去し税法に奇異なる變革を加へ内國品が最も競爭を恐るる外國品を無税と爲して我國の勞働者を困難の地に陷らしめ又製産家を救ふ可らざるの穽に擠すに外ならざるなり我黨は保護税法は亞米利加建國の大本にして國民の須臾くも離る可らざる骨髓なるを主張し反對黨の主義とする自由貿易論は憲法の本體を傷くる謬説なりと信ずるが故に保護自由二政策の得失を論するに當りては我黨は公然己れを守り敵を駁して憚らざれども反對黨は正正堂堂の陣をも張らず自由貿易の主義を何れの處にか隱蔽して狡猾にも關税改良の新語を作り其文字の人を瞞着し易きを利して我黨に攻撃を試みんとするが如きは甚だ卑劣の手段なれば先づ其假面を打〓して〓〓の弱點を暴露せしめざる可らず方今國庫に〓〓たる其餘剩は國民の財貨を流通社會より引去て〓〓の運行を妨げたる結果を來して其害〓〓ならざれば之を〓ふの方法を立ること大切ならざるに非ずと雖も左れば迚建國の大本たる保護制度を破らんとは我黨の解せざる所なり國庫に堆積する無用の貯蓄を世に散じて併て内外の税額を國の必要の支出に應し得べき程度に■(にすい+「咸」)じて財政の整理を計るは我黨に於て不同意なきのみならず大會議(六月十九日シカゴ府に開きたるレパブリカン黨の大會議を云ふ)に於て我黨は其整理の方法を示して熱心に論辨したり然るに我保護主義に抗する者は此問題を利用して我關税法を攻撃するの一口實となし口には歳出入の平均を計て同時に國庫の餘剩を■(にすい+「咸」)するより外に目的なしと主張すれども實は彼等の主義とする極端の自由政策を今日に行はんとするに相違ある可らず我黨は關税改正など文字章句の末節を爭ふ者に非ずして保護自由の政策上大に雌雄を試みんと欲するが故に國庫餘剩金の始末と歳出入平均の方法とに就ては其手段も少からず未だ償却を了はらざる公債も莫大なれば國庫現在の貯積を以て次第にこれを償還して後世子孫に其煩なからしむるは得策ならん此手段は法律の許す所にして米國の憲法に妨げなきのみならず民間に流通の便を與ふること亦少からざるべし (未完)