「ハリソン氏の政策(昨日の續き)」

last updated: 2019-10-28

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時事新報に掲載された「ハリソン氏の政策(昨日の續き)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

米國政治社會の大問題たる國庫餘剩金の處分と歳出入均一法の手段とに就てレパブリカン黨の主張する所は昨日の紙上に記したれば次に他の二三政策のデモタラツト黨と相容れずして軋轢の甚しきものを掲げんに第一支那人の來住禁止に關してはレパブリカン黨は初より賛成して獨りデモクラツト黨を助けたるのみならずハリソン氏の如きは其教書に於て「予は熱心に支那人拒絶を主張する者なれば身親ら其任に當るに於ては充分の政策を施すべきは勿論其來住を制止する爲めには現行の法律より更に嚴重なる新法を設くるも或は從前の法に改正を加ふるも與に予の賛成する所にして即ち大會議の决議は能く豫の意見に投合して戻らざる者なり」とまで明言したり左ればレパブリカン黨の議論に於ては元來敵黨は自由貿易を主張しながら支那人の米國に來るを拒み啻に禁止税を課するに止まらずして法律の力を假り一切其來住を防がんとするは前後矛盾の次第なる可し我黨は保護政策の大義に則り内地の製産者と勞力者とを庇蔭するの必要を認むるが故に常に外國より勞力の輸入を防がんと欲して百方盡力する者なり即ち支那人來住禁止も其一條なりと雖も抑も抑も關税は全廢せざる可らずと唱へ内地の人民をして畏るべき外國競爭の衝に當らしむるも更に危險なしと主張するデモクラツト黨にして却て支那人の來住を恐怖し遽しく之を防ぐは我黨の聞て甚だ怪む所なりと爲し其初デモクラツト黨が支那人來住禁止條例案を國會に出すに當りても世人はレパブリカン黨の精神は兎も角も唯政黨に反對の手段として必ず之を攻撃することならんと思ひの外に速に賛成同意を表し吾れ若し取て之に代らば一段嚴密なる禁止案を行はんと迄に聲言したるは寧ろクレヴランド氏の不意を喫したる所なる可しデモクラツト黨は自ら原案を出しながら案外なる敵の舉動に逢ふて中途に引留まらんとしたれども騎虎の勢制す可らずして遂に議决に至りたるはレパブリカン黨の爲めに載せられたる姿なきに非ず又州外地を州と爲すの疑問に就てはハリソン氏は現在の州外地にして今日これを州と爲し合衆國聯合諸州の中に加へて差支なき者少からずと雖も尚これを依然たる州以下の地位に措て參政を許さざるは人民正當の權利を枉げたる政策なり畢竟一時の事情に適應せしむるが爲めに施行したる便法を歳月既に積んで人口稠密なる地方に當嵌め永く變更する所なからしめんとするは不當の法なること言を俟たずと論じたれどもクレヴランド氏の爲めに計るときは右の州外地中には撰擧の日に敵黨に與する者多からんとの恐あるが故に今回の爭に先ち之に州權を渡すは恰も敵に兵を假すに異ならずとして甚だ之を憚りたれども左ればとて何時までも州權を渡さざれば地方人民の不平と輿論の攻撃と氏の一身に聚まる可きが故に氏は之に處するの策を講じ既に州外地を州と爲すの胸算は定まりながらも本年再度の撰擧を終るまでは此事以て他人に語る可らず斯くて彌彌明年三月現職就任の旨を披露すると共に同時に右の次第を發表せんとの苦心なりしにレパブリカン黨は之を發て其狡猾を罵りたるよりデモクラツト黨も殆んど答辨に苦みたる由は米國最近の郵報に依て我輩の知悉したる所なり又年來外交上の問題たりしカナダ漁業條約は先に英國の委員チヤンバリン氏と米國國務卿との談判にて雙方讓るべきの利便を讓りクレヴランド氏も承諾して彌彌條約决定に至らんとするに際し上院に反對起りて其案を否决したるが爲め折角に纏まらんとしたる紛議も再び破綻して今は如何ともす可らざるの有樣なり又何故に上院が之を否决したりやと尋ぬるに國務卿の締約せんとしたる漁業條約は大に合衆國の利益を殺で英國人に讓る所のものなれば我國漁民の困難は今後一層甚しかる可し且つ國の體面より言ふも斯くまでに己れを枉げて人に屈するは不都合なるが故に現任大統領の意見は兎も角も上院は斷じて之に抵抗せざる可らずとの趣旨なしりが如し是も近來の出來事にして爲めにデモクラツト黨の勢を挫折せしめたるに疑ある可らず

以上はハリソン氏の政策にして政黨の議論を駁し自黨の論鋒を進むる手段は中中感服すべき者なり殊にレパブリカン黨中第一の巨擘と聞えたるブレーン氏が自身に候補者たるを辭しハリソン氏の爲めに力を盡し投票分散の弊を防て黨勢を一■((「黒」の旧字体のれんがなし+「占」)+れんが)に聚めたるは政治上の懸引に妙を得たりと云はざる可らず左れば今回ハリソン氏當撰の電報も偶然ならずして益益信ず可きものの如し但し撰擧の當日は勝敗實地の模樣如何なりしか其等の報に接するも亦近きに在る可ければ我輩は暫く知る所を記して後の電報の來るを待つなり   (完)