「米商會所税率の改正」
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時事新報に掲載された「米商會所税率の改正」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
米商會所税率の改正
昨日の官報勅令第七十五號に明治十八年十一月第三十八號布告米商會所并に株式取引所收税規則第一條中米穀定期賣買千分の二を萬分の六に改む但明治二十一年十二月一日より施行すとあり即ち是れまで米商會所にて米の定期賣買各約定代金高千圓に付き二圓の税を拂ひしものが本年十二月一日より萬圓に付き六圓、千圓にては六十錢に■(にすい+「咸」)じ株式取引所にて緒株式定期賣買の税と同樣に爲りたることなり抑も米商會所に税の重くして國計に不利なる次第は我輩の毎度論説したる所にして今回この發令を見るは獨り私見の中るを喜ぶのみならず日本最大一の産物たる米穀の商賣の爲めに祝せざるを得ず從前米商に重税を課したるは禁止税の意味にして其禁止論の由て起る所の原因は米の定期賣買を概して空相塲と認め、空相塲は博奕に異ならずとて商賣活世界の思想に乏しき日本武士流の空論に胚胎し空論を以て空相塲の弊害を攻撃したることなれども現政府は今にして空論の不利を知り斷然法を改るに吝ならざるは當局に人ありと云ふ可し定期賣買時として空なるに似たれども其空中自から實用亦甚だ多し全國の米價に平均を得せしめて相塲の報告を速にし各地の農民等をして其産物を賣るに異常の禍を免かれしむるは米商會所の功徳ならざるはなし殊に近來は東京の米商會所などに於ても取引は隨分盛なる方にて其定期賣買の受渡しに實米を以てすることも多し亦以て空相塲の空ならざるを證するに足る可し又米の賣買盛なれば其影響する所は米價を下落せしむるよりも寧ろ騰貴せしむること從前の例に於て違はざる事實にして米價の騰貴は農家の幸のみならず隨て商賣社會一般の景氣たる可ければ是れ又間接に國計を助るものなり既に株式取引所に於て公債證書の定期賣買に限り其税を萬分の三と爲したるは公債の賣買を盛にして其價を維持するの趣意なる可し今若し公債賣買の税率を大に引上け千分の二と爲さんか其賣買は忽ち景氣を失ひ隨て價格の下落す可きは論を俟たず左れば今回米穀賣買の税を■(にすい+「咸」)したるは其賣買を盛にするの刺衝にして其盛なるは米價を維持するの方便たること疑ふ可きに非ざるなり
右の次第なれば米商會所の■(にすい+「咸」)税は國計に利すると共に之を私にしては會所の當局者に於て其營業の便利この上もある可らず依て爰に我輩の所望を云へば會所が此機〓空ふせずして次第に其内部の組織を改良し商賣の品〓〓上〓して純然たる〓〓の〓〓たらしめんことの一事〓〓多年〓日本の〓〓〓は〓〓甚だ宜しからず其〓〓の中には〓の爲めに〓〓の〓もあらんなれども凡そ〓〓〓界の評判は〓に空中より飛來するものに非ざるが故に世人若し疑を起して從來の相塲所はいよいよ以て公明正大曾て半點の汚痕なき商賣の塲所なるやと問ふ者あるに於ては我輩も容易に之に答へて然りと云ふを得ず左れば彼の有名なるブールスの一條も固より謂れなき邊より生じて實際に行はる可きものにあらざるは申すまでもなき次第なれども斯る謂れもなきものが大に相塲所の累を成したるは何ぞや相塲所の本體に多少乘ず可きの〓ありしが故なりと答へざるを得ず十全健康の身體は外邪に犯さるることなし其來て犯すは我身體に犯す可きの虚あればなり相塲所の體力幸に尚ほ健康にして明治二十四年六月まではブールスの外患を免かれたれども今後の發生如何に從ひ此期限は喜ぶに足らず亦憂ふるにも足らず相塲所の規則紊亂して商人の氣風腐敗せんか二十四年を待たずして其營業を停ること易し或は之に反して役員仲買等が規則を改良し又これを守ること正しく、相塲所に出入する商人等が其擧動賤しからずして正當に取引し内外百般の風景總て高尚に赴き日本帝國相塲所の名に愧ぢざるに至るときは又何の要用の爲めに之を改むることを爲さんやブールスも長く不用に屬して二十四年の期限憂るに足らざるなり相塲所存廢の原因は自今これを他に求むるを要せず其存するも自から存するなり其廢するも自から廢するなり我輩は今日より日本國中相塲所の運動を見て其存廢を卜せんと欲する者なり