「東洋問題」

last updated: 2019-10-28

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時事新報に掲載された「東洋問題」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

又關税の項に

一旅客の食用家禽、鶏、鴨、〓の種類、諸農業器具、各種金銀屬(但し砂金を除く)金銀

貨幣、理化學星學算術醫術等に關する各種器械並に書籍、地圖、册幅、鉛板器械(但し數

目の過多ならざるもの)菜、蔬、果、大小樹株、各種花卉、魚類、喞水筒、各種包袋用の

袋、蓆、繩線は悉皆輸出無税たるべし

一鴉片、兵器中大小砲及び彈丸、各種破裂丸、爆裂藥の類は輸入を禁止し犯則者ある時は

其物品を沒取すべし又以上禁制品の外に原酒を露國に運送し又紅蔘を運出するを禁ず

一以上無税品禁制品の二項を除き總て陸路より朝鮮に輸入し又朝鮮より輸出する貨物に對

しては百分の五の關税を課すべし尤も海路に依て朝鮮の各通商港に輸出入する貨物の課税

は海路貿易條約に照し納税する者にして本條約の例を引證するを許さず

右の中にて前兩項は無税品禁制品の種目を明にしたるまでなれば我輩別に怪む所あらずと

雖も後の一節輸出入品の課税を總て百分の五と定めたる一事に付ては聊か意見なきを得ず

試に日本朝鮮の現行貿易規程を見るに朝鮮海關の税目は

第一項五分の税 藥材製藥及び明礬、樟腦、石炭油、日本銅、日本人自用雜紙、飮食物

煙草類、石炭コーク、日本人常用器具其他これに類する雜貨

第二項八分の税 染料及顔料、石油を除き諸種の油、蜜蝋、木蝋、瀝青、タール、鐵、

銅、鉛、錫、布帛類、鹽、茶、寒天、日本酒、木竹石材煉化石及瓦、食用磁器陶器類、器

械、衣服、帽韈、

第三項一割の税 龍腦、麝香、金銀銅錫の箔類、色紙、印材、其他文房具、紗、縮緬、

駐重、麥酒、葡萄酒、熟皮類、馬具馬車、玻璃器、楽器、鑛山用爆發藥

第四項一割五分 砂糖、菓子類、煙管煙嚢類

第五項二割 安息香、沈香、線香、白檀、甘松、金銀器及び鍍金銀器、天鵞絨、煙草一

切、蒔繪漆器、玩具、時辰器類

第六項二割五分 洋酒の中ヴエルモツト、ボルト、セリー、寫眞、鼈甲細工、繪畫彫刻

第七項三割 洋酒の中ブランデー、ウイスキー、シヤンペン、リキウル、杜松子酒、燒

酎泡盛類、獵銃及び使用品、煙花類、珠玉寶石、象棋骨牌其他一切の遊嬉品

右の如き次第なれば日本人にして例へば獵銃を朝鮮に輸入する者は關税三割を課せらるゝ

に反對し露國人の慶興より之を販ぐ塲合には五分の税にて内地に輸送するを得べし其他何

等の商品にても八分以上の關税を課せられながら五分の負擔に止まる貨物と競爭して勝を

制す可らさるも明白なれば露朝陸路通商の盛なるに從て諸外國の貿易は漸次衰退すること

ある可し尤も朝鮮の各通商港に在りては露國人の商賣たりとて陸路貿易の例に由ること能

はずして別に海路貿易の税を課せらるゝ約束なりと雖も露國が朝鮮に對する海路の貿易は

寥々至極なるが故に海陸その税率を殊にするも敢て不都合なきのみならず海路の貿易には

諸外國と與に過重の税を出して陸路の通商に獨り五分平均の關税を私するは專有の利これ

より大なる者なかる可し

要するに今回の陸路通商條約は露國將來の東洋政略に便宜を與ふ可き者にして兩國境界貿

易のいよいよ盛なるに從がひ日本の朝鮮露國に對する利害の關係はますます蜜ならざるを

得ず且つ我輩の此條約を閲して驚く所は京城駐在の露國辨理公使ウエーベル氏が斯程の特

遇特權を朝鮮政府に要求したるに朝鮮の官吏に於て否まざるのみならず支那の委員袁世凱

も敢てこれを妨害せざりし一事なり盖し朝鮮政府の袁氏を畏るゝは恰も猶分家の主人が本

家の番頭を憚るが如くにしえ一行一言これに諮詢せずと云ふことなく朝鮮の政略は悉く其

手に歸したるの有樣なりしに近來その趣を殊にして漸くこれを疎んずるに至りたるは事實

に於て掩ふ可らず即ち條約の如きも若し袁氏をして豫め其議に參せしめなば斷然抵抗する

は勿論支那政府も亦これを默々に附せずして其間に紛耘の生ずるは必然なるに幸に其事な

かりしは兩國互に秘密を旨として袁氏と雖も充分これを知るの遑なきに早く既に發表した

るが故ならん過日倫敦發の電報がタイムスに露國朝鮮秘密條約の事ありと傳へてより一時

は種々の風説起り朝鮮は露國の保護國と爲りたるなど訛傳百出したれども秘密條約の成立

たざる事實次第に明にして世人も漸く電報の僞を知るに至れり然れども八月八日に締約し

たる陸路通商條約案は兩國委員の秘密に議して突然發表したる者ならんなれば倫敦タイム

スの訛報を傳へたるは我輩の深く咎めざる所なり(未完)