「朝鮮の獨立(昨日の續)」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「朝鮮の獨立(昨日の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

次に支那政府の朝鮮に對する政略を尋るに相變らず宗國君父の權を名とし袁世凱を留めて内外の政治を監督せしむるは其意を得ざる所にして特に怪しむ可きは袁氏の地位は支那政府の公使なるか或は李鴻章の代理なるか極めて曖昧なる一事なり先に李鴻章は或る外國公使の問に答へ袁氏の地位は別に名のあるべき職掌ならざれども洋文に飜譯すればレジデント(駐在官)なりと答へたるよし其他漢字新聞の之を欽差と唱へ洋字新聞のエンヴホイ(Envoy)と稱するは袁氏を以て純然たる外交官と認めたるやうなれども朝鮮に對する百事の舉動を見れば大に然らずして單に内外百般の事に喙を容るるのみならず一歩を進め朝鮮國王は支那に對して臣禮を取らざるが故に斷然廢立の事を行ひ朝鮮をして屬國たるの實を表せしめざる可からずと主唱し竊に朝鮮政府の人に結び陰謀を廻らしたる取沙汰もありしほどなり袁氏が實際に斯る企を爲したるや否は事實の明證なしと雖も朝鮮國王の顧問デンニー氏の朝鮮獨立論には公然袁氏の舉動を非難して少しも憚る所あらずデン氏の獨立論は過日來の〓〓紙上にも記したる如く朝鮮は支那の屬國ならず既に西洋諸國と對等の約を結び歐米諸國よりも公使を發し又朝鮮よりも既に外交員を派したるは是れ全く其獨立を表したる者にして支那との關係より言ふも朝鮮は古來决して臣禮を執りたることなし然るに袁世凱が京城に在りて百般の政治に干渉し剩へ國王を廢して朝鮮を支那の版圖内に入れしむ可しと主張するは朝鮮の獨立を妨ぐる次第にして不都合少からざれば支那〓〓〓〓〓を召還せしむ可しと云ふに〓〓〓は元來〓〓の〓にして久く天〓上〓の〓〓〓〓の〓〓を〓め〓〓氏の〓〓と爲りその朝鮮に雇はれたるも李氏の周旋にして是より先き李氏はモルレンドルフを朝鮮に紹介し、モルレンドルフ去るに及びて更にメルリス氏を周旋したれどもメルリス氏辭するに及んで其後任に撰まれたるは今のデンニー氏なれば朝鮮に來るの初め必ず李氏の命を受けたる所あらん然るに袁氏デンニー氏の間に軋轢起りて今日殆んど讎敵の思ひを爲すとは我輩の解せさる所にして特にデンニー氏の位地に就ては支那諸新聞紙の評論も一ならず或はデン氏は朝鮮王に加擔して支那に裏切したれば李は大に怒り朝鮮王に勸むるに罷職の事を以てしたりと云ふの説あれどもデン氏の言に據れば氏の支那に對する實意は毫も昔日に異ならず李鴻章との交情も亦至て親密なれども袁世凱の朝鮮政府に對し傲慢無禮なるは支那朝鮮兩國の交情を妨け竟に朝鮮をして露國に結ぶの端を開かしむる者なるが故に余は支那の爲めに又朝鮮の爲めに袁氏に抗すと言へり其言の信僞如何は詳にする能はざれども天津に於て李氏の機關なりと聞えたる支那タイムスの如きも袁氏の行爲を責め早く之を召還し更に外交の事務に通して才力ある高官一人を派してこれに代らしめ朝鮮國王との交情を結ぶに非ざれば恐る可き禍を釀す可しと明言したり又十一月十七日の同新聞は袁デン兩氏の不和に付き其事實を報して曰く朝鮮國王がデンニー氏の諫に從ひ袁氏の召還を李鴻章に要求したるは一月以前の事にして李氏が若し其希望を納れざるに於ては更に支那皇帝に上書し朝鮮政府は飽まで袁氏に對し外交上の交誼を全ふするを好まざるの意を明にす可しと陳べたるに李氏はその求に應し袁世凱を召還すると與に朝鮮は顧問デンニーの職を止めて本國に歸らしむ可しと答へたりと朝鮮國王が李氏の勸に從ひデンニー氏を解雇するや否は容易に知る能はざれども支那タイムスの論する所は袁世凱を長く朝鮮に駐在せしむるときは袁氏と國王との不和益益回復の途を失ひ朝鮮に對する支那の關係は益益危急に迫るべし夫迚袁氏を召還する能はずとすれば其極は朝鮮國王を廢して大院君を立るの外に兩國の關係を滿足ならしむる手段なかる可し然れども是れも漠然たる希望なれば早く調和を爲すの策は袁氏を召還す可しと云ふものなり即ち我輩日本人の所見に於ても異議なき所にして袁氏が頻りに朝鮮の内政外交に干渉し又廢立の事に喙を容るが如きは容易ならざる次第にして支那の爲めに謀るも早く之を召還するこそ上策なる可ければ支那タイムスの意見をして李氏の政略を動かすに足らしめんこと我輩の希望なれども獨り不服なるはタイムスの論旨に朝鮮をして支那に服從せしむるは必要大切なるが故に毫も其政略を忽に爲す可らず故に對韓政略を一變し思慮熟練に長したる高貴の官を撰みこれを同國に派して百事の監督に當らしむべしと云ふの一義なり元來朝鮮は純然たる獨立の國にしてこれを唱ふる者は獨り日本のみならず米英〓〓の諸國孰れも對等の約を結び互に其主權を認むるの際に在りて獨り支那政府が舊時の筆法を株守し隣の一王國を目して所屬なりと主張するは東洋の不幸を釀す原因たるのみならず支那の爲めに計りても不〓なるべしと我輩は信ずる者なり(未完)