「朝鮮の獨立」
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時事新報に掲載された「朝鮮の獨立」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
西洋諸國は概ね朝鮮の獨立を認める今日に露國のみ之を肯んぜずして侵掠の手段を用ひん
とするが如きは列國の手前を憚る點に於ても其事の行はる可きに非ず即ち露國が朝鮮に垂
涎するの説は斷じて我輩の信ぜざる所なれども若しも平和の手段に依り朝鮮海岸に四時全
開の港を作る望あらば進んで之を取るに躊躇することなかる可し何となればサイベリヤの
鐵道を延ばして浦鹽斯德に達せしむるも其港は氷の爲めに年の一半を閉されて航行の自由
なきが故に更に線路を南に轉じ温暖の海岸を求むるに非ざれば露領亞細亞の殖民開拓は充
分に功を奏する能はざる可ければり或はサイベリヤ鐵道は浦鹽斯德の港に均しく氷雪の裏
に其用を爲すこと難かるべしとの掛念あらんなれども實際は然らずして茫漠たる平野なれ
ば降雪の量は氣候の巖なるに比べて却て少しと云へり且つ雪を避くるが爲めには鐵道に雪
除の設ある可し獨り運河の氷結したるは如何ともす可らざるに似たれども汽船に代ふるに
橇を以てして以て氷上を馳するの速力は尋常の船に讓る所なく冬期は黒龍江上流の船路に
皆この便法を用ふる者なるが故にサイベリア全線の鐵道運河成るとするも年中一半、全く
交通の絶ゆる氣遣ある可らず之に反して浦鹽斯德の汽船航通は氷に閉されて其間は貿易の
道塞がり東洋の商賣一時中止の姿を爲すは露國の損毛大なりと云はざる可らず即ち安全港
の必用ある所以にして腕力手段は兎も角も頻に善隣の交を修め朝鮮の歡を迎へんとするの
際に支那にして甚しく其内治に干渉し國民に不快の念を懷かしむることもあらば朝鮮はま
すます露國に依賴するの心を起して遂に事變を釀すなきを期す可らざるなり
朝鮮問題に關しては外國新聞の所説一ならざる中に上海クーリールの如きは日本支那の兩
國攻守同盟の約を結び露國に對して朝鮮の獨立を保護すべしと論じたり盖し東洋の平和を
守るが爲めには兩國の同盟も可ならんなれども一朝事あるの際に攻守相援ふの約は如何に
して全うするを得べきや例へば支那の疆塲に露兵進入したりとて日本より遙々兵を滿洲蒙
古の奥に出すは實際の許さゞる所にして又日本の海岸に露〓の來り侵すことありとするも
支那現在の〓〓は日〓〓〓〓〓〓力〓〓〓可きや攻守〓〓〓〓は〓然〓る〓〓〓〓〓る可
らず〓〓支那英國の〓〓〓〓〓稠密條約の〓〓もあら〓〓〓の〓〓より〓〓〓〓〓〓は獨
り〓洲の〓〓に於て〓〓格を援ふ必用あるのみならず印度、亞富汗に在りても之に抗する
の備なきを得ざるが故に縱へ支那の疆塲に其兵を假す能はざるも印度、亞富汗の境より進
んて露領に入り其肘を掣て軍氣を沮むるの策行はれ難きにあらず即ち支那英國は露國と其
領地を接するを以て攻守同盟の約も成立つならんなれども之に反して日本は四面繞るに海
を以てして境界の爭起る可きに非されば露國を敵にして支那に結ぶの必要なかる可し然ら
ば露國に結ひ支那英國に當るの策は如何と云ふに是れ亦我輩の思寄らざる所にして英國は
商賣上の好得意なり支那と雖も隣國の好ありて平生の利害痛痒相關する少からざるに何の
要ありて之を敵にす可きや要するに攻守同盟の策は日本に行はるゝ者に非ざれば我は其間
に中立し國力平均の上に立つより外に良策なかる可しと我輩の信する所なり然れ共朝鮮の
爲めに其獨立を維持せざるを得ざるは前に申す町内の静謐安全を保つが爲めの手段にして
苟もこれを侵す者あるに於ては其敵手の誰彼に論なく故障せざるを得ず幸に米國は初より
朝鮮の獨立に盡力しコモドル シユフエルド氏の初めて之を促し西洋との交を開かしめて
より常に他國に率先して其獨立を天下に表白したるは最も我輩の悦ぶ所にして善後の策は
其獨立の名を全うせしめ東洋の平和を維持するに在るべきのみ
國際の事は專ら不干渉を旨とすべし漫に他國の紛議に與り國光を外に輝さんとするの手段
は我輩の擯斥する所なりと雖も僅に一葦帶水を隔てたる朝鮮國の獨立に對しては直接の關
係あれば尋常一樣の外事なりと爲す可らず左れば今後朝鮮政府に對しては益々信睦を厚う
し又朝鮮駐在の外交官をも撰み或は通商貿易の事に於ても專ら信切を旨とし其他朝鮮の獨
立を表する點に於ては日本の外交に躊躇なからんこと我輩の希望して已まざる所なり(完)