「讀メール新聞」
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時事新報に掲載された「讀メール新聞」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
讀メール新聞
時事新報は國會議員の年齢三十歳以上とあるを二十五歳に減じても妨げなからんと論じた
れども壯士をして議員たらざらしめんには矢張り法律に定めたる通り三十歳の方は適當に
して成るべく用心するに如かず云々とて過日橫濱メール新聞の評論ありしかば我輩は之に
答へて年齢の制限を三十歳以上とするときは壯士は之を以て法律を恨むの口實となし若し
も廿五歳以上ならば自身も議員たるを得べきならんにとて苦情を鳴すこともあるべし左り
とは無益の煩累を招くの次第にして假令ひ廿五歳以上とするも天下の撰擧人は决して壯士
に投票することあるまじければ斷然積極的に當撰の區域を擴張すべしと申せしにメール記
者は猶ほ未だ之に服せずして一昨日の同紙上に又もや批評して曰く成程壯士が不平を鳴す
の事情如何に付ては余輩は東京の新聞記者に一歩を譲らざる可らずと雖も假に余輩をして
立法の局に當らしめば彼れ壯士輩の思惑の如きは更に遠慮するを要せず斯る惡民が法律に
服從せざらん歟とて物々しく云々するは餘りに立言の過ぎたるものには非ざるか兎も角も
濫に寛大に失せざるは法律の主義として賛すべきものなりと云へり抑も我輩が廿五歳を妨
なしとしたるは决して漠然筆に任せて書流したるには非ず事實に照して見る所あるものに
して即ち今の府縣會議員は廿五歳以上の定めなれども三十歳以下の議員は概して總數の五
分位に過ぎず府縣會すら此の如くなれば况して國會の議員としては一層深く心を用ゐ老人
に投票すべきは今日社會の傾なれば壯士輩が當撰せん抔どは所詮、見込なきこと勿論たる
べし然る上は唯徒に三十歳以上と遠慮して無益の煩累を招き將た青年稀有の人材を失はん
よりは寧ろ二十五歳として危ぶむ所なく政略の大膽を示し併せて積極的の區域を擴張する
こそ却て策の得たるものならんと述べたるのみ然るにメール記者の尚ほも不服を唱へら
るゝは抑も何等の根據に出てたるものか若しも記者の如く唯用心に用心とのみ主張して三
十歳を可なりと云はゞ其用心に一層を加へて四十歳以上としては如何、更に五十歳以上と
しては如何、用心の爲めには至極妙なるべしと雖も其趣を喩ふれば昔しの養生家が過食の
害を恐れて四椀よりは三椀に如かず三椀よりは二椀一椀を善しとして更に食物不足の害あ
るを知らざるが如し經驗の上にていよいよ不都合を認むるときは其節に至り改正を加ふべ
しと申せども事に標準なくして趣向を組立つるに至りては我輩は唯その不思議に驚くの一
事あるのみ