「・電話機の架設を急く」
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時事新報に掲載された「・電話機の架設を急く」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
・電話機の架設を急く
東京市街の有樣は近來ますます其盛を加へて家屋の建築店頭の裝飾より馬車人力車の往復と云ひ瓦斯電氣燈の架設と云ひ又この頃は市街鐵道の企あるなど日一日に壯觀を增すの勢いなるが是れ一には日本の首府たる地位よりして唐詩に謂ゆる皇居の盛なるを視ずんば安んぞ天子の尊きを知らん云々の意味もあることならん又一には今の東京は日本商賣の中心たるが故に事の必要よりして斯る繁昌を呈するに至りたるものなれば其外粧に屬するものとても固より之を蔑視す可きにあらずと雖も實際商賣上の便利に歸すべき設置は益々これを奬勵して其繁昌を謀ると同時に兼て都府の粧飾に注意するの工風最も肝要なる可しと我輩の信ずる所なり現今市中に行はるゝ馬車鐵道なり瓦斯燈なり及電氣燈なり凡そ是種の設置は都府の外裝を壯にするに兼て又商賣上の便利とも爲る可きものにして之を人民の手に任ずるも妨なきが故に民業に歸したることならん左れば之に引繼ぎ電話機の如きも同樣ならざるを得ず抑も電話機の架設は既に我國に珍らしからぬ事にして政府にては數年前より之を使用し諸官衙閒の用向、各警察署の報知又は鐵道停車場の通信等に其便利一方ならざるは經驗に於て明白なる可し殊に本年の初より東京熱海閒に通話を公開してより其便益は今日世人の既に疑はざる所なれども元來電話機の便益は遠隔なる距離に於けるよりも寧ろ接近にして而も頻繁なる應酬に效を現はす可きものなれば繁劇なる市中の商賣用に供してこそ始めて其用を足す可きものなるに今日までの處にては其用の獨り官符の事のみに限られたるは(東京熱海閒の外)我輩の甚だ遺憾とする所なり今の東京市中の有樣を見るに鐵道馬車あり乘合馬車あり又人力車ありて人閒の往來物貨の運送には差したる不便を感ぜ
ざれども身を動かさずして用を辨ぜんとするには郵便の便に依賴せざるを得ず勿論今の郵便の仕組は務めて速達に注意することならんなれども發着集散自ら時あるを以て市中の配達にも二三時閒若しくは五六時間を費して閒に合はざることなきにあらず故に商用其他少しく急速を要する事には更に人を馳せて其用を辨ぜざる可らず錢を費して時を空うするの不便は實際家の常〓訴ふる所なりと云ふ左れば西洋諸國の都府の如く電話機の架設を許可し中央交換局を市中に設け以て人民の需用に應ずる事となさば其便利は數ふ可らずして商賣の如きも爲めに一層の繁昌を致すことならん而して線架設の事たるや巨額の費用を要するに及ばず工事も誠に容易なるものなりと云へば我輩は府下人民の繁昌便利の爲め其架設の必要を説くものなり
聞く所に據れば政府にても近來東京市中に電話機架設の計畫ありて其事の整ひ次第おひおひ着手の順序なりと云ふものあり我輩は其政府の手に出づるなり又は民間の企に成るなり管理の法よろしきを得て能く公衆の便利を〓する以上は強ひて之に異論を唱ふることなし〓〓等又一方より今日の實際を見れば政府にては已に〓〓〓〓道を拂下ぐるの噂さへありて成る可く營利の〓〓〓〓〓開かんと〓る〓〓〓なれば電話の業も寧ろ〓〓〓〓〓〓して〓〓するこそ最も適當なる可し兔も角我輩は事の實施を急ぐ者なり