「墨西哥條約」
このページについて
時事新報に掲載された「墨西哥條約」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
墨西哥條約
我日本帝國と墨西哥合衆國との間に締結したる修好通商條約は愈よ去る十七日を以て公布せられたり此條約は昨年十一月三十日米國華盛頓に於て我全權委員陸奥宗光氏と墨國全權委員エム ロメロ氏とにて記名調印し我皇帝陛下〓に同國大統領の批准を經て本年六月中華盛頓に於て交換濟となり今回その發布を見るに至りたるものなり條約文は總て十一條にして其條項は曾て本紙上に米國新聞紙より譯出したる大意に異ならず純然たる對等條約にして從前我國と諸外國との條約に見る能はずして獨り今回の條約に特色を添へたるものは内地居住と法律裁判の二個條なりとす即ち其第四條に
日本皇帝陛下は本條約前條に依り日本國に渡來する墨西哥國人民に附與したる特權の外〓に此條約に記載せる數個の條〓に對し別に同國人民に許與するに皇帝陛下の領地内及ひ其所屬地各所に入來し又は滞在住居し同所に於て家屋倉庫を借受け又は總て正業に屬する天産物、製造品及ひ各種商品の卸賣若くは小賣營業及ひ其他一切合法の職業に從事するの特權を以てす
とあり又其第八條に
日本國または其領海に來る墨西哥合衆國の人民及ひ船舶は日本國又は其領海に在る間は墨西哥合衆國及び其領海に到る日本皇帝陛下の臣民及ひ船舶か墨西哥國の法律及び其裁判管轄に服從すると同樣日本國の法律を遵奉し且つ其裁判管轄に服從すへきものとす
とあり此二個條は從前各國との條約面には絶えて見ざる所にして我國にて所謂治外法權の例に依らず外國人をして我法律裁判に服從せしむるの端を開きたるものは實に此條約に在りと謂ふ可し又輸入税の事に至ては其第七條に
墨西哥合衆國の天産物及ひ製造品を日本國に輸入し又は日本國の天産物及ひ製造品を墨西哥合衆國に諭入するときは他の外國の産出若くは製造に係る同種類の物品に對し現に賦課し若くは將來賦課すへき輸入税に異なるか又は之より多額の税を賦課することなかるへし云々
とありて今日我國に於ける諸外國より輸入する物品の税率にして改むること能はざるときは假令へ墨西哥にて我日本産の貿易品に課するの税率高くして我國にて同國より輸入する貿易品に課する割合に異なることあるも條約面に於て之を如何ともす可らず此一事に至りては少しく對等の地位を失ふが如き感なきにあらずと雖もこれはこの條約の欠典にあらずして從來諸外國との條約より生じたる結果なれば漫に咎む可らず之を要するに今回の墨西哥條約は文面上對等の権利を有するの一點に於ては之を稱して完全なるものと云はざるを得ず〓て思ふに目下我政府は諸外國に對して條約改正の談判を開き一二の大國中には既に我申出を承諾したるものもある由にて隨て世間には其改正の箇條に就て議論少なからず或は之を贊成し或は之に反對し我輩も亦〓〓〓〓を陳述せし〓ともあれども〓も現行の條約に〓〓〓〓〓よりして〓〓の〓〓も〓なから〓〓こと
〓〓〓且つ〓正談〓〓〓〓〓〓〓〓復する〓〓は〓〓〓〓〓〓や〓知る〓〓〓〓〓〓我國人〓〓も〓〓〓〓〓〓〓〓持して海〓の諸國と對立するの覺悟ある可きは勿論、外交の局に當る人々も亦此心を以て其事に從ひかりそめにも苟且偸安の念ある可らず今度の談判の詳細は我輩の知る能はざる所なれども一日も早く今の諸外國との條約をして此墨西哥條約と同樣ならしむるの時に到着せんことは我輩が國民一般と共に希望する所なり