「特別輸出港規則」
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時事新報に掲載された「特別輸出港規則」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
特別輸出港規則
兼てより公布ある可しと本紙上にも其噂を記したる特別輸出港規則は愈々去月三十日を以て公布せられ帝國臣民が米、麥、麥粉、石炭、硫黄の五品を海外に輸出する爲め左の諸港内を特別輸出港と定めたり
伊勢國四日市 長門國下ノ關 筑前國博多 豊前國門司 肥前國口ノ津 肥前國唐津 肥後國三角 越中國伏木 後志國小樽
近年我國産の海外に輸出するもの年々增加の勢あるは疑ふ可らざる事實にして昨二十一年の輸出総額は既に六千五百七十萬五千五百十圓餘の多きに達したる其中に就き右の五品の輸出額及び其金額を見るに
品 物 數 量 金額
硫黄 一千百四十二萬六千三百七十七斤 十二萬九百二圓七十四錢
大麥 九十七萬九千七百五十二斤 九千三十四圓十二錢
小麥 一千二百四十九萬三千百廿一斤 二十萬五千七百五十七圓二十五錢
麥粉(其他粉類) 百七萬九千四百六十六斤 二萬六千三百六十一圓六十九錢
米 三百三十一萬三千三百八十三〓 七百四十二萬一千二百三十八圓八十二錢
石炭(屑粉共) 九十七萬五千二百八十九噸 三百十八萬六千三十七圓四十六錢
にして輸出品中に少なからざる額を占むるのみならず今後益々增加の見込あるものなれば成る可く其輸出の便を謀る可きこと勿論なるが扨こゝに困難なるは右等の物品は何れも其量の重大なるものにして就中石炭及び硫黄の如きは採掘の區域に自ら定りあるのみならず多くは山間僻邑の土地に産する等の事情あるが故に之を遠隔なる開港塲に運搬し愈々輸出する迄には費用案外に嵩みて利益の少なきのみならず實際その不便に堪へざるは當業者の最も困難する所にして年來その苦情少なからず既に二三の塲合に於ては當業者より出願して愈々税調吏員の出張を請ひて其手數を盡し傍近便利の海灣より内國船舶の便に依りて輸出の實を行ひ居たるものもなきにあらざりし由なるが是は元より内々の計ひにて公然免許ありたる次第にあらざれば當業者に〓ては〓〓少なからざりしに今回の特別輸出港規則にては即ち公然これを許し而も國内便宜の地なる九個所の港に於て之を行ふ事なれば全國の當業者は遍く其澤に〓ふて便利この上なきは勿論、隨て内國産の輸出額も是より次第に增額を見るに至るや疑ふ可らずと我輩の信ずる所なり然り而して我輸出物品中にて木材の如き海産物の如きは右の五品に比較して其額の少なからざるのみならず運搬の不便利にして費用の多きは敢て之と異なる所あらざるに然るに今回の特別輸出は右の五品のみに限りて木材海産物等に及ばざるは如何にやと云ふものもあらんなれども我輩の所見を以てすれば右は〓の有無に關係する次第にして元來右の五品は無税輸出の品物に屬すれども木材海産物等は然らず盖し今回の〓〓に據れば特別輸出港に於て船舶の出入及び輸出品の〓積に關する事項は總て外國貿易の手續に依〓〓〓〓〓又その〓行細則を見れ〓其〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓れ〓〓〓〓〓〓を〓く〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓は〓〓〓〓〓〓〓〓くして〓〓〓〓の〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓れど〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓となり隨て〓多の吏員を〓〓し今の開港塲5個處の外に更に九個の海關を增設すると同じく其入費は非常のものにしてよしや之が爲國産の輸出に多少の增額あるも差引して損得相償はざるにも至る可ければ扨は専ら無税品のみに限られたるものならんと思はるゝなり又この規則に於て其輸出事業に使用する爲め外國船を雇入れんとするものは大藏大臣に出願し外國船雇入免状を受け之を使用する事を許したるは畢竟今の日本の海運は猶ほ幼稚なるを免れずして海外輸出の業に從事す可き船舶に乏しきが故に特に此條を設けて當業者の便に供したる事ならん而して斯く特別輸出の特許を與へたるも彼沿海貿易の一事は我國法の禁ずる所にして其影響の及ぶ所は單に一國内の事に止まらざるが故に當業に從事するものは深く之を戒め苟めにも其特別の便利を利用して却て其戒めを犯すが如きことある可らず即ち規則中に所罰の條ある所以にして斯る特別の便利を受くると同時に益々國法を重んずるの意を深うす可きは盖し帝國臣民の本分とする所なる可し