「技師及び技手」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「技師及び技手」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

技師及び技手

明治十八年の官制改正以來内務、農商務、〓信の諸省を始めとして其各局の中に技師(奏任)又は技手(判任)と稱する一種の職名を生じ其司る所は重もに技術上の事柄にして例えば鐡〓とか鑛山とか〓路とか建築とか申す如く専ら一局部の仕事を負擔し一般普〓の事務は別に局長、次長、属などいうものにて之を取扱う事となりたるが實際の關係に就て見るときは技術家は全く技術のみに關して事務の事には喙を容るゝ事なく而して事務家は局長、次長など云う一局を支配する地位に居るもの多きが故に同く一局中の官吏にてありながら一方は主人の如く一方は客の如く又一方は雇主にして一方は雇人の如き有樣もなきにあらず扨何故に斯る區別を付くるにやと云うに彼の専門の技術家なるものは其〓に於てこそ立派なる學士とも博士とも申す可けれ世間普通の事は學問藝〓の外にして技術家の得意とする所にあらざれば事務の取扱は別に其人なかる可からず〓た技術家なるものは其〓なる一局一部の事には明かなる可きも全局一般を總覧するは容易の業にあらず即ちこれ局長次長等の必要なる所以なる可し云々との説をなるものあり今の官制に於て技術家と事務家とを區別せし趣意は果して此邊に在るや否や知る可からずと雖も我輩はこの區別を以て寧ろ不必要なりと認むる者なり抑も今の諸省の各局中にて所謂技師技手の職を置く所は内務省の土木、地理に於ける農商務省の農務、商務、工務に於ける又〓信省の工務、燈〓等に於けるが如く何れも工藝技術の事に關係ある局面にして凡そ此各局に於て取扱う所の事柄には一として技術の事に外なるものある可からず左れば所謂その普〓の事務とても亦技術の範圍を離る可からざる譯なれば技術家をして之に當らしむるも何の差支ある可きや成程彼の海陸軍の事などに至ては戰時戰爭に出づるものと平時平務に従うものとの別を爲すこと肝要にして此の如くせざるときは萬一の塲合に忽ち差支を生ずるが故に平素よりして文官武官の別、判然たる事なれども技術の事は大に之と異にして平常非常の塲合とて差したる區別もある可からざれば其擔當の人を別にするの要もなかるべし今の世の人の癖として妄りに事務々々とて事務といえば何か非常に六ケ敷事のように云うものあれども右の各局などに於ては技術の事を外にして別に重大なる事務のある可き筈もなければ之が爲めに別に事務家を置く必要は無る可し盖し我國古來の弊風として技術家と云えばとかく之を卑めて職人と同樣の觀をなし學者と聞けば偏に〓俗心に乏しき偏屈者なりと思うものなきにあらず而して此風は特に自ら事務家と稱する人々の中に行わ〓〓由なれども少しく眼界を廣くして今の社會の〓〓を眺めたらば忽ち其考の妄漫なるを悟るに足る可し〓日政府の官吏中には法律もしくは政治經濟の専門科を〓め其〓を以て出身して一局面の責に任じ活〓なる事務の衝に當るものも少なからず而して此等の人々の修めたる所を問えば即ち専門の一科にして其藝より云えば技術家、身分より云えば學者たるに相〓なけれども實際は決して〓〓ならざるのみならず事を處するに活〓敏捷なる其手際は却て老練の事務家をして〓若たらしむるものもなきにあらず猶ほ〓く其例を申せば現に各省中の或る局課には偶まに所謂技術家出身の人にして局長次長もしくは課長等の地位に居る者なきにあらず然るに其局課の事務は如何と云うに之を他に比して劣る所なきのみか事務は却て〓に捗どり部内の人々は皆實力を逞うして會釋する所あらざれば例の〓實なども行われずして不平の沙汰も少なく實際に甚だ觀る可きもの多しと云う左れば今日に於ては別に一局の中に技術家と事務家とを分ちて徒らに事を多くする必要もあらざる可く特に政府にても目下經費〓減の一方より頻りに用を〓し兼て人を減ずる折柄、我輩は前文の各局に於ても局長次長若くは〓など云う事務家をば別に之を置くことを止め技師及び技手の人々を以て之を兼しむる得策たることを勸告する者なり