「西尊東卑(一昨日の續)」

last updated: 2021-12-25

このページについて

時事新報に掲載された「西尊東卑(一昨日の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

五六年來我國に於て西尊東卑の勢を成したるは蔽ふ可からざる事實にして西洋人と云へば上下押並べて通用よく幅がキクと申さんか刃向きが宜しと唱へんか雇西洋人は官吏中特別に取扱はれて言聞かれ謀用ひられたまま地方に漫遊すれば縣官の遠く相送迎するある等得意の箇絛少なからず又民間の商店〓會等にても獨逸人を始め其他西洋人の金脈を引くか或は之を雇用する者は廻り廻りて或る部分の急所を押へる便利あるが爲め大手筋の注文多くして商賣自から繁昌し洋語を解せざるものは人にして人に非ず學事上に交際上に其需要頗る急なるが爲めに公私學校の中にては水夫風〓の西洋人を雇ふて語學〓授の大任を托したるものさへあり西洋人の行〓は時に我が公私の禁句に觸るゝも先づ以て覺假さるゝこと多く例へば鐵道停車塲にて日本人が線路を横切れば忽ち叱責を蒙れども西洋人は之を渡りて其向きの小言さへ聞かざるが如き人の能く知る所なり身分卑しけれども西洋人なるを以て上流の〓會に容れられ甚だしきは雲上高貴に謁する榮を得るやう次第なれば上の好む所下之より甚だしく舞〓演劇衣紋髪〓唯何となく西洋風を喜び之を日本風に比較して其〓粗優劣を取捨する暇なく〓〓を以て木桃に換へ日本固有の美を捨てゝ武骨殺風景なる西洋の事物を採用するものも多く其眞似らるゝ西洋人が心窃に氣の毒に思ふて傍より其不策を忠告する事さへあり誠に苦々しき次第にして是れも上流〓會のみの流行とあれば其流行に流さるゝ最中にも時に本氣を取り直して獨立國人たる資格を失ふに至らざる可しと雖ども上流の流行延て下流に浸潤するときは彼れ無學無識の輩、自立の特操あるものに非ざれば西洋人は上流の信仰推尊する所にして一種特別の人類なりとて其威風に震〓し其先座に平服し事の極端靴で頭を蹴られても黙々たる勢を成して知らず識らず對等交際の大義を失ひ陰に陽に奴隷の體裁を呈する恐れなしと云ふ可からず凡そ世界の人種中には各國人と入り亂れて相觸れ相接する際に於て自から保つこと〓きものあり又甚だ強きものあり其強きものはウエウ人種の如しジエウ人種の氣力に富んで蓄財の技能に長ずるは世界國人の及ばざる所にして從來各國人共に此人種を厭惡して之を〓逐虐遇すること殆んど至らざる所なく他の人種ならんには縱へ其人種を滅絶するまでに至らざるも爲めに大に其人口を減ずること勢の必然なる可きに然るに此ジエウ人種は身に世界人の攻撃を受けて之れに堪ふるのみならず其人口はますます〓加し歐米各國到る處に其位地財産を擴張して政事家にはビーコンスフヒールド伯の如きあり素封家にはロスチヤイルド氏の如きあり幾回他人種とて他に〓み込まるゝことなく又その人種相保つこと強くして其平素の吝嗇なるにも似ず同人種間公共の病院學校寺院等を維持する出費は他人種に比して遙に多額なると云ふ〓し強硬不屈の人種にして此一〓より云ふと〓〓殆んど世界第一流なりと申して可ならん人數少〓〓〓大ならずして今の世界中に獨立し然かも大に〓〓〓〓〓し又之〓〓〓〓せんとする人民は自から〓〓〓〓〓須らく〓〓〓〓人種の如くにして始めて〓〓獨立を維持することを得べしと雖ども〓心平氣日本人自から顧みて果して是れ丈けの堅〓強硬なるを發明す可きや由來遠き體格遺傳論は今姑く之を〓き今日只今我日本人の心に發して形に現はるゝ行〓を見るに自から守て他と相對する趣なくして我れより迎へて他に容れられんとする跡あるものゝ如し今日本人と西洋人と相對して何か理屈を爭ふに當り六分の道理を持ちながらも先づ面倒なりとて手を引く者は日本人ならん他人の國自慢を聽聞して今度は此方の順番なりと云ふ處にて兎角遠慮して差し控える者は日本人ならん遲刻違約等の失敬ありて他の叱責を蒙れども他人に失敬ありたる時に獨り苦笑して止むものは日本人ならん裁判に曲直を爭ふに當り先づ仲裁説を容れて我れより折り合ふものは日本人ならん又た洋行の日本人を見れば衣帽装〓偏に流行に違ふことを恐れ萬々一にも日本服などを着用するものあらば同胞知己之を忌みて國辱云々の評を下すこと必然にして彼の支那人が國服を服して西洋人を眼下に見下し大手を振りて西洋の市街を横行する其膽勇に對しては聊か汗顔せざるを得ず尤も日本人が西洋風に化して其方向に過敏なるは今日の文明〓々を致したる所以ならん云々と云へば是れ亦自から一説なれども獨立國人として自から守る固からざるは蔽ふ可からざる事實ならざるは我が日本人の固有性にして本居〓敷〓の歌に朝日ににほふ山櫻はなとあるは邦人氣性の美事にして櫻花朝〓に映ずる趣あるを道破したるものならんと雖ども細かに之を玩味すれば輕湊〓〓の徃質も亦其中に含蓄するを見る可し斯る〓實ある其際に上下相卒ゐて西洋流に向ひ狂熱盲進して止まざる時は心、形と共に化して國民獨立の元氣要素も其流行と共に流れ去ることならん抑も我が日本國にては古來大和魂云々の説もありて其愛國心の深きこと我も人も共に信ずる所なれども本來之を試驗する機會なかりしが故に其深淺を測るに由なし蒙古入寇朝鮮征伐等は毎度愛國心云々の引證と爲れども大事に臨んで一時其攻防の責に當るは印度、安南、細〓等東洋數多の亡國中にも其事例あることにして獨り日本に限るに非ず眞の愛國心を試驗する時は内外國人相雜居し政治共に語り法律共に談じ商賣には利を爭ひ工業には益を競ひ冠婚葬祭花鳥風月相互に苦樂を共にする時にして頑硬密實其守る所を守り不撓不屈の〓〓を以て對等獨立の體面を維持す是れこそ眞の愛國心にして此愛國心なきものは一個人々相觸れて相交る際に於て其亡國の端を開くこと東洋古今に其例甚だ多しと雖ども我が日本人は未だ此愛國心の深淺を試驗するに及ばず否、今正に之を試驗せんとする矢先きなれば日本國有の〓慣舊例、國民自から區別す可きもの或は殿堂臺〓を始め衣服装〓の微に至るまで之を見て日本國を〓ひ之を〓ふて日本人の何物たるを銘肝す可きものは心を盡して加護保存せざる可からざる筈なるに然るに今や西尊東卑、上下〓々その流行に流されて獨立國の〓念碑とも申す可き〓俗事物を捨て去らんとす何んぞ其れ狂妄の甚だしきや即ち彼の西尊東卑者流を警醒するは今日志士〓人の當務にして愛國の志あらんものは共に力を致す可きものなり

以上一〓に〓〓する所は世上に所謂非西尊東卑者流の説を寄せ集めて其論鋒の向ふ所を示したる者にして其論中自から一理なきに非ず余も或る部分までは同じ〓勢の道連れたる可しと雖ども此筋道に猪進して更に一歩を〓るときは彼の平準〓を通り過ぎて反動の極端に達する恐なきを得ず西洋必ずしも尊からず又必ずしも卑からず東西の文明は各々その〓原を異にして一長一短、尊卑一方に偏ず可からざる理由あるが故に試に之を次號に陳せん(以下次號)