「西尊東卑(昨日の續)」

last updated: 2021-12-25

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時事新報に掲載された「西尊東卑(昨日の續)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

高 橋 義 雄

東西の文明自から一長一短あり尊卑一方に偏ず可からず畢竟文明の由來を異にして有形實質の進歩に於ては彼れに讓るもの多きが故に我れは唯之を學び又之を取る可きのみ遠慮に及ばざる筈なれども凡そ人間の〓〓として己に他の一長を許し亦随て之を尊重すれば之れに伴ふ事々物々何となく奇光殊色を放つかと思はれ我れより自から〓惑して彼の有形器械的の文明のみに止まるを得ず蒸汽船車の便利に心醉すれば〓會交際舞踏宴樂衣紋髪飾の微に至るまでも之に伴ひ一も西洋二も西洋の勢を成し果ては日本に固有する美術工藝的の文明をも打ち棄て彼の武骨殺風景なる技術品類を愛重して自から悟らざるに至る即ち凡俗の常〓にして今學校の生徒に向ひ〓師の學術のみを稽古せよ云々と命ずるも一たび之れに師とし事ふるときは知らず識らず際に先生の態度品行〓慣に化せらるゝ者と一般、長は長、短は短と區別分界を明にして之れを取捨することは甚だ易からず斯くて長短併せ取りて西尊東卑の勢を成さば間接直接日本立國の元氣を殺ぎ其獨立心を蒸消して有形無形他の奴隷たるに至る可しとの掛念もあり是れ亦自から一説にして此等の事宜に處する法は如何せば則ち可ならん我輩の所見を以てすれば今後我が日本人は斷然西洋人に依頼する念を絶ち巧拙利鈍必ずしも問はず成る可く自から經驗工風し自家獨造の力を以て西洋の文明を日本化せしむる一方あるのみ抑も我が開國日淺しとは申すものゝ開國以來四十年明治改元亦己に二十餘年、此際歐米回覧と云ひ或は遊學修業と云ひ政治法律陸海軍務商工殖〓文學科學研究〓察の目的を以て人を海外に派遣したること前後幾千人なるを知らず他國の事物を傳受するが爲め斯る多人數を派出したるは古今萬國その例を見ざる所にして多き洋行者の其中には漠然徃還したる向きもあらんかなれども我が遊學生秀才の評判は毎度彼の耳目を驚かす程にして何々學士若くは博士等の榮名を肩にして〓朝したる者も少なからず凡そ右等の人々が其西洋に學ぶ所に加ふるに日本固有の學藝技術を以てしたらば今日只今強ひて西洋人に依頼する必要なかる可き筈なるに然るに今の實際に於て陸海軍にも西洋人、汽船會〓にも西洋人、法律編纂も西洋人にして諸學校の〓授にも西洋人、其他私立の會〓等にて西洋人を依頼する塲合甚だ多し或は無限の事〓に由り之に依頼して却て當座の得策たることもあらん亦是れ一種十露盤上の掛引、政治家の方寸もあらんなれども詰る處は他人に自家の事を托して主人自から傍觀することなればすることなれば此際に我が獨造の工風を〓喪せしむる不利は決して小ならず遺憾なりと云ふ可し日光の殿堂、奈良京都の伽藍、毎に萬國人の目を驚かすものは何人が之を建てたるや、一〓の馬車を調進する爲め態々使者を洋行させて注文したりとの奇談あれども在昔の鳳〓御輿の類は何人が之を造りたりや近頃建築する家屋の飾りに西洋風の〓〓模樣等を用ふれども我が〓〓〓〓の巧は却て西洋に優るに非ずや凡そ此等の類例は〓〓〓〓あらざる程にして結局〓〓を〓せざる者が〓〓たる西洋流行に流されて自から〓〓に〓るものならんと雖ども斯くて西洋人に依頼しで日本獨造心の發達を妨げ又その發生の地を與へざるは國民自立の爲めに謀りて窃に痛惜に堪へざる所なり今人生れて三十年學ぶ所少なからず然かも他人に依頼して自から其身を處すること能はざるものは之を〓して愚と云はざるを得ず日本開國三十年學ぶ所少なからず然かも他人に依頼して自から其身を處すること能はざるものは之を〓して愚と云はざるを得ず日本開國三十幾年西洋人に學び西洋人を雇ひ遍〓〓學今日に至りて尚ほ西洋人に依頼するは聊か不外聞の簾なきに非ざれば今後は日本人も獨立と覺悟して滿期の西洋人は悉く解雇し新に雇はんとする者共は成る可く之を差控へ萬々已むを得ざるもののみは雇い年限を短くして隨時遣還の目途を立て日本の事は總べて日本人の手に辨ずる趣向こそ肝要ならん斯くて日本日本の人が日本の事に就て自立の主義を執れば暫時の間は或は失策もあらん或は不手廻はりもあらんと雖ども無一錢にて經驗を買ひ勞せずして熟練を得んとするは固より望む可からざることなれば多少の不便失策は貴重なる經驗熟練を買ふ代價なりとして敢て堪〓す可きのみ西洋の事物必ずしも尊からず又必ずしも卑からず彼の有形實質の進歩は極めて迅速なるが故に其長短尊卑の在る所を察して遠慮なく之れを日本化して一刻も早く西洋丸出しの眞似〓氣を去る工風なかる可からず盖し我が日本人が新奇を喜んで舊物を厭ひ守るに堅固ならざると同時に〓るに鋭敏なることは爭ふ可からざる事實にして近時西洋有形文明の進歩に伴ひ急進長〓して現今の〓勢を致したるは全く此感性あるが爲めなる可し假りに我が日本人をして英國人其儘ならしめんには今日の進歩は思ひも寄らず此一〓に至りては聊か他に誇る所なれども進むに急なれば退くにも急にして時々反動の奇相を呈し事を將に成らんとするに破ること毎度其例に乏しからず左れば我が鋭敏なる感性に今後少しくジヨン プリズムを導き胡椒に砂糖、燒酎に蜜を調和するが如く我が性急短氣を救ふに英國風の實着を以てせば國百年の長計も順を逐ふて之を成就し西尊東卑若くは其反對など云へる變動の爲めに功を一〓に缺き事を將成に破るが如きことなかる可し余の〓〓〓望する所なり(完)