「諸君何を以てか〓平に答えん」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「諸君何を以てか〓平に答えん」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

諸君何を以てか〓平に答えん

來年は國會開設と云える大事ある年なり大事に應ずるには前以ての用意専一にして識者の心を勞するは實に今年に在る可きなり抑も我輩は政事家を以て自から任ずるものに非ず議塲に自説を持ち出して權力の有無を試むるが如きは本來思い寄らざる所なれども來年の國會が首尾よく開けて前〓圓滑に〓行せんことは我輩の〓〓祈りて已まざる所にして其然る所以は他に非ず今年二月帝國憲典の發布あるや世界各國の新聞紙は全文若しは其要領を掲載して之れに種々の論評を下し有名なる倫敦タイムス新聞の如きは説を作して謂らく日本新憲法の中に就き其貴族院の組織等は英國の現制に優る所多く英國の方にて却て之を學ばざる可からざる程なれども憲法文面の美と政治〓行の妙とは自から區別あるが故に日本の憲法が名實共に美なるや否は其國會開設後の成行を見て始めて之を知る可きのみとて憲法文の細評は暫く置き來年第一國會の實際を見物せんとするものゝ如し左れば我が日本國にて開國日淺きにも拘わらず亞細亞洲中に率先して立憲政體の憲典を發布したるは世界各國人に對して我れも人も榮譽とする所なれども是れは名のみの榮譽にしていよいよ國會開設して憲法の〓神も行われ立憲政體に固有する彼の政治機關圓滑の妙を示すに非ざれば實の榮譽と爲らざるのみか或は輕擧事を誤る評を招きて笑を天下に取る可きなり抑も歐洲政治學者の間に古來二樣の説ありて一は政治を歴史始め者とし凡そ各種の政體は由來〓き〓化を經て始めて其體裁を爲し又始めて其國〓に〓する者にして學者の想像したる新政體を一朝事實に行わんとするは空中楼閣の談なりと云い一は政治を想像的の者とし凡そ國民一般の智德が或る政體の〓神に合して新に之を移植せんとすれば他國に生長する或る樹木を一朝自國に移し來りて其繁榮を保つと一般、新政體の根本も亦忽ちにして固まる可しとて双方互に喧しき議論もある折柄なれば我が立憲政體の果して首尾よく行わるゝや如何は世界各國の政體史に新しき一事例を開くものにして現に英國オクスフホルドの法律學者中にては我が新憲法の〓神を究め日本實際の民度に於て其〓神の如何に行わるゝやを承知したしとて其向きの日本學生に向い我が憲法の由來を調べて之を著〓することを奨励するものさえあり要するに我が第一國會の結果は世界各國人の〓を延て相共に見んと欲する處にして苟も日本國人として國の榮譽を〓んずるものは如何なる〓〓、如何なる苦〓を〓んでも其平穏無事を祈りて一には世界各國の面前に我が國民の品位を高め一には世界の政〓史に一〓事例を開くことを〓せざる可からず即ち國民の本分天〓〓にして誠に明白なる次第なれども局に〓るものは〓う諺もありて人事多〓の折柄〓〓政治上の〓〓も〓りて〓は此〓〓〓る事實を取り〓すことなきに非ず今試に身を〓外などに置きて〓方より内を顧みれば滔々たる國中の人民は所謂國と云える思想に乏しく公私の擧動に見苦しき體裁を露呈して外國人の耳目に〓し其都度事實を質問されて窃に赤面する次第も多く我が日本人は何故に斯くも他の毀譽に無頓着なるならんとて毎度斷腸の思を爲すことなれども扨て身を日本社會に置て直接に政治の事に當り威福權力を爭うときは私〓私慾も其間に動きて自然〓慾の奴隷と爲り日本國の榮利を思いて世界の評論を恐るゝの念も次第に薄らぐ趣なきを得ず又彼の〓〓一轍の士は所見も自から狭〓にして國の爲めにする〓神は誠に純粹潔白なれども其爲す所は粗暴に流れ昔年攘夷の〓慨家が國の爲めとて西洋人を斬り其都度多額の償金を取られて國の名譽を汚したると一般、行の粗暴なるものは其心は潔白なりとて〓して之を許す可からず堯舜の誤りて失したる火も盗〓の故らに放ちたる火も家を燒き人を殺し害を與えるは同樣なるが故に來年の國會事業に就き敢て其安全を妨げるよう働を爲す者あれば當人の心事は如何なるも世界各國人の目前に於て我が新政體の鼻を殺ぎ或は其眼を〓り去り其面目を傷けて醜を萬世に〓すものにして其罪固より恕す可からざるなり凡そ文明國の人民は政事に狂奔して至極騷々しき事もあれども國家に一大事を引き受けて共々之を成就せんとする間は人々恰も相期するが如く相戒めて安泰を保護する趣なきに非ず例えば今年佛國巴里の萬國大博覧會の如き實に一國の事業にして其開會の間に於て内に政治上の騷〓あらば中〓大事を誤る恐れあるが故に國民申合せたるが如く傍より之を妨ぐるものとてはなく今のチラー内閣は世に博覧會内閣と唱えて左まで人望あるに非ざれども博覧會の開塲する間は取り代らんとするものもなく國民の企望如何ともする能わず彼のブーランジエー將軍の如きものすら尚且つ謹愼して大事の終るを待つが如き即ち文明國民が國の名譽を重んずる一例として見る可きなり博覧會は一年限りの者なり國會は年々の者なるが故に固より同年の談に非ざれども第一國會開塲〓々、事の圓滑に始まらざるは國民の〓に於て〓びざる所にして斯くては笑を萬國に取るのみならず畏くも〓襟を惱まし奉る事態ともならんか社陵の〓〓云えることあり獨使至〓憂社〓、諸君何以答〓平とあ、是れ今日の事にして我輩は此意を我が一般人に貫徹するまで百回千回之を説て〓まざるものなり