「北海〓移住」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「北海〓移住」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

北海〓移住

北海〓は沃野千里の地なり斧斤山に入らずして若木は新陳交代の〓なきを嘆き礦脉は萬年知己を得ずして臥龍の三顧を待つが如し沿海漁獲の利に富んで内地は桑麻百穀に〓し氣佳なる哉鬱々蒼々然たり富源の深くして〓利の多きこと日本國中共に比す可きものなしと雖ども開拓事業實施以來年を閲すること已に二十、三十餘萬圓を消費して起業を助け移住を勸め獎勵行き届かざるに非ざれども人口の〓殖は僅に廿五六萬人に〓ぎず案外なりと云う可きなり今假りに歐洲の西北部、我北海〓と同緯度の處に同樣の一嶋ありたらば如何、人の之れに赴くこと蟻の梨子に集まるが如く政府の手にて獎勵保護する等の手數を待たず全嶋、人の黒山を成して物産繁殖〓突林立、大〓高屋〓比して土一升に金一升の盛〓を呈することならん均しく是れ北海〓なり、歐洲の〓海に接すれば忽ち人の黒山を成し日本に於て然らざるは何ぞや畢竟我日本人の不活〓と申す外なけれども從來自由なるが故に人々他行外出に慣れて廣き世界を股に掛け利の在る所を見出して之れに赴くの習あれども日本は交〓開けたりと云うも鐡〓僅に一千英里に〓したる位の事にして封建時代卿黨屏居の趣は今尚依然たるが故に云わば〓方の事〓を知らず〓方の〓利を見出すこと能わざるものにして其有樣は穴居の蟻が〓子の所在を知らざると一般、之を知らざるが故に之れに集まる念も薄からざるを得ず甘を慕うは蟻の本性、利に赴くは人の常〓、之を〓きに致す〓は一旦誘いて實物を見せ其甘利の所在を示して其嗜慾を促す一方あるのみ即ち我が日本人に向て北海〓移住を勸めんとするには唯其形勢を口に説て之を耳に訴えるのみならず其手を引て之を北海〓に誘い甘汁芳餌を其眼に示して移住の念を心底に釀さしむる事肝要にして之を誘因するに二樣の法あり一は政府より我が官私鐡〓會社に談じて特別に所謂移住民列車を仕立てしめ一箇月に凡そ二三回を期して汽車交〓のあらん限り北海〓移住若くは之を檢分せんとする者を撰み無賃にて同〓まで〓〓する事、一は同じく政府より我が汽船會社に約して移住民〓〓の法を立て其向きの目的を以て北海〓に赴かんとする者に限り無賃乗船を許さしむる事即ち是れなり今實際家の説に據るに我が鐡〓會社中には營業〓々事務未だ緒に就かざる向きも多く此際移住民列寧を仕立て又その向きの切符を發する等〓分混雑を生ず可きが故に當分移住民の〓〓は汽船に由る方便利ならんと云う其邊は實地談として後に讓り兎に角に無賃の便を開きて移住の目的を以て北海〓に赴かんとする者は勿論、或は一時その實地を見物せんとする者にても汽船車中移住民の取扱を以て片〓の〓賃は都て政府の支給として其旅行を許したらば我が人民中にても漸く移住の念を發起し人々相促して遥々繰り出すこととも爲らんか或は永住の考なく一時見物を終り次第、〓々歸〓するものあらん即ち片〓の〓賃を得ながら移住の實効を立てざるものなれども此人々が〓里に歸りて〓隣合壁に所見を談じ世間に北海〓の談を〓加すれば人耳漸く其談に熟して眼に其實地を見んことを欲し結局世人の感覺中に北海〓を〓寄せて行路の難を配慮する〓を絶つ可きのみ斯くて移住民〓〓賃として政府より汽船鐡〓會社に仕拂う可きもの一人平均凡そ十圓と見積るも五萬人にして五十萬圓、十萬人にして百萬圓、之を從來の殖民費に比すれば僅々の額と云わざるを得ず我輩の聞く所に據るに英國にては全嶋の人口年々四十萬を〓加する比例にして之れと同時に貧民を〓加する恐れあるが故に同國の有志家中にては自助移住民會社なるものを設け海外に移住せんとする人々には移住地の景〓事〓等に就き成る可き丈けの報〓を與え又移住費に乏しき者には其事〓次第にて若干の旅費資本を貸與する都合にして昨年中の報告に據れば一名の貸與する都合にして昨年中の報告に據れば一名の貸與金凡そ五磅即ち我が三十三圓三十錢餘に當りたりと云えり英國にては内國人口の〓加に〓られ其人民を海外殖民地或は〓もなき外國に〓らんとする右樣の補助を與えるに非ずや然るに我北海〓移住民の如き日本帝國中に於ける千里の沃野を開拓して其物産を〓殖し國家富強の源を養わんとする其使者として出張するものなれば官民共に之を助けて相當の保護を與えるは〓理の當に然るべきものなりと云いて可ならん是等の方便を以て北海〓移住民を〓して全〓の人〓稠密と爲り鶏鳴牛〓相接して宛然一雄鎭たるに至らば人民自治の基を立て〓丁を撰びて操練を教え一旦〓急全〓の力を以て北門の〓〓を守る杯の用意もあるべく彼の屯田兵の如きものは寧ろ其要用を見ざることともならんか盖し我が其向きの人は北海〓屯田兵の制を稱して兵農兼備の銘案なりと信じ追てますます其制を擴めんとするものゝ如く軍規を以て農圃に及ぼし其行止の時間を制するは固より一利なきに非ざれども一方には兵を業として農事を片手間にするが故に費用固より多端にして〓支相償う可しとも思われず我國にても〓來鐡〓の開〓するに〓い軍國〓輸の便利を〓し隣國兵を提げて我が北海〓を襲わんとするなどの塲合もあれば豫め其兆候を察して最寄鎭薹の兵を發し或は軍〓を差し廻わして夫れ夫れ攻防の用心を爲すに自然不手廻りの箇條を〓じ結局屯田兵を恃んで一時を間に合わする等の心配もなかる可ければ此等の兵は先ず是れまでの處に差し置き寧ろ其費用等を集めて之を移住民獎勵法に用い全〓人口の〓加するを待ちて〓て土兵を編制し全〓の殷富繁榮に伴いて自治自守の長計を立つること我輩の大に属望する所のものなり