「讀横濱メール新聞」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「讀横濱メール新聞」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

讀横濱メール新聞

〓日來横濱のヘラルド新聞との論辧漸く終らんとしてメール新聞また次に現われ一昨四日の同紙上に高等教育の國家に大切なることを論じて時事新報が今の帝國大學を政府の手より分離せしめんとする非なるを陳べたり一篇の文章數千言に亘りたれども其要旨は政府にて頻に學生の大學に入るを獎勵するにも拘わらず入學の生徒甚だ少なくして而も舊科、法科、工科は其大數を占め理科、文科の如きは合わせて一百名に充たず學問の思想一般に幼稚なる今日に當り時事新報の如き議論あるは誠に悲しむべしと云うに〓ぎず抑も我輩の持説たるや政府は最上の教育に金を投じ及び最下の教育に世話すべきも今日の如く人々私の生活職業を目的にする教育を授けんが爲めに國庫の金を費すべきに非ずと論ずるものなり記者も云うが如く舊科大學に入りて開業讀者となり法科大學に入りて代言人となり役人となり工科大學に入りて官私の技師となる者は皆是れ單純なる學問の爲めに非ずして自家營生の料を求むる者に非ずや日本の父兄貧なりと雖も子弟に教育の欠く可からざるを知れり唯銘々の貧富に應じて或は高き教育を買い或は安き所に止むべきのみ濫に國庫の支辧を以て廉價に貧書生を養い之に職業の資を授けるは國民一般の義務にあらず今の大學を癈したればとて子弟が就学の塲所を失うことなく之が代理たるべきものは續々として現わるべし故に職業より以上に位する最高の教育は醫と法とを問わず政府の宜しく負擔すべき所なれば或は今の大學の組織を變革するも可なりと雖も我輩は唯大學現在の仕組に向て金を投ずるを惜むのみ、眞成高尚の大學は國家の必要なり又名譽なり斯る大學を作りて大學者を養成し以て純然たる學理を研究し發明せしむるは一國永〓の緊要事なりと雖も其事たるや資金を要すること大なる割合に直接の利益少なく到底人民私しの企に及ぶ可からざる所なれば之が爲めに國庫の金を費すも愛しむに足らずとの次第は先年來〓に己に言い盡したる所にして今更記者の講釋も珍らしからざるを覺ゆるなり、思うに記者は我輩の論意を會得せざるか或は日本の事〓に不案内にして唯人の話を聞き得たるまゝ〓々筆を下したるものか文勢頗ぶる大人しからずして時としては喧嘩を買わんと欲する意味も見る可し兼て着實老練の名あるメールにしては少しく不似合なるが如し殊に末段に至りて福澤氏云々というが如きは直に人名を指して事を非難したるものにして自から人身攻撃の言と云わざるを得ず若しも斯る筆法を以てせば我輩も亦メール記者の事業、公私の交際より其私事内行に至るまでも摘発する極端卑劣に至る可きなれども左樣のことは時事新報の品位に於て〓して許さざる所なれば都て此邊の攻撃は記者に於ても今後を戒しむる方、穩なる可し