「實業の利害最も大切なり」
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時事新報に掲載された「實業の利害最も大切なり」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
實業の利害最も大切なり
今舊の條約改正に就き或は中止と云い或は斷行と云い諸〓の議論少なからずと雖も多くは士族流の國權論又は憲法論にして却て事に最も密接の利害を感ずる農商工の社會は寥々として無言なるが如し我輩は志士論客の所説を以て強ち無用なりとするにはあらざれども更に〓んで實業家の實説を聞かんと欲する者なりとの次第は昨日の紙上に其大概を〓べたり抑も政治社會に與論の力の屈強なるは古今東西の別なき處なれども殊に日本の〓來には其勢力なかなか強く與論の名を以て〓行すれば大抵の手前は無事に罷り〓らるゝ姿と爲りて〓に明年は國會開設とまで〓まり與論萬歳とも云う可き次第なるが扨顧みて社會の表面に立て所謂與論を作るに與りて有力なる其種類の人々を見れば志士論客若しくは政黨員など云う一類にして多くは舊藩士族の〓〓なるが如し而して此一類の人々が一國の與論と稱する所を聞くに其議論も確かにして〓理も尤もなるに相〓なけれども唱える所は常に政治の範圍に止まりて營業の利害云々の點に至りては思いの外に淡泊にして或は全く之を忘るゝが如き觀もなきにあらず今回の條約改正論の如きは即ち其一例なれども今姑く之を〓き更に之を從來の事に徴するに着々皆然らざるはなし政治の自由不自由は人權伸縮の關する所にして國の爲めに大切なること勿論なりと雖も商賣産業の今の立國に〓〓可からざる事も亦勿論にして其大切なるは〓して彼〓〓〓の別ある可からず日本の今日に於て實業の利害如何は〓〓〓〓の消長に關する大問題にして苟めにも〓〓〓可からざるものなるに今の與論の彼に盛にして此に〓〓〓〓〓〓の常に〓とする〓なり例えば集會の自由〓〓〓自由など年來世間の〓〓は常に喧しく是等の事は所謂與論の希望として誰一人も異議なき所なれども之に反して事の農工商等の實業に關する彼の十州〓田舍の處分ブールスの始末もしくは蠶絲業組合の規約等の如きものに至れば其不便不利は申す〓もなく其業の利害に取ては一方ならぬ大關係あるものなれども世論は思いの外に穩にして或は其不都合を云々するものあるも徃々一部分の苦〓と見做され〓に與論を喚起するに至らずして止むことなきにあらず同じく立國の要素にして一方は些細の小事にても忽ち一國の與論となり一方は國の富強繁榮に大關係あるものにても兎角世間に輕視せられて注目を免るゝことは甚だ以て不釣合の談なれども彼の志士論客が實業の消長に就ては差向きの痛痒なき其の上に實業の當局者は心事常に卑屈にして自ら〓んで利害を陳し與論を喚起する氣力なきが故ならんのみ其〓恰も病の床に臥しながら苦痛を〓んで呻吟さえもせず他人の來て之を診するを待つものゝ如し氣の毒なりと云う可し斯る事の次第にては今の商賣立國の世の中に處し内の事は兎も角も外に對し商權を爭うなどは〓も望む可からずして我輩の轉た慨嘆に堪えざる所なり左れば今日の經國談は何は兎もあれ先ず取敢えず實業家の奮發を望むこと第一の要にして今回の條約改正に就ても世の志士論客に劣ることなく〓んで自家の利害を〓ぶ可きは申す〓もなく彼の法典編纂の事なども農工商の事に最も關係あるものなれば獨り之を法理學者の議論にのみ委せずして實業家自らも能く自家の利害に照らして實際の調査こそ緊要なれ擧に就ても徒に他に雷同せずして自家獨立の用意なかる可からず從來我國の實業家が與論の外に〓斥せられ其聲至て低かりしものは社會の舊習慣に依るとは云いながら其人々が銘々孤立して協同一致の風に乏しきも即ち其無力の一原因なれば今後は當面の實業の爲めにも又世間に對する間接の勢力の爲めにも先ずこの風を養成すること専一なる可し〓うに條約改正と云い法典編纂と云い殖産實業の利害に關する所極めて大なるは申す〓もなく殊に明年の帝國議會は國民が始て所思を吐く塲所なれば我輩は實業家が能く協同一致の實を奏して此機會を空うせざらん事を希望するものなり