「農商務省の改革」
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時事新報に掲載された「農商務省の改革」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
農商務省の改革
農商務省が〓般他に卒先して省中の改革を行い官吏の〓〓も少なからざりしより今後の成行如何なる可きやとは世間一般に〓目する所なるが竊に我輩の所見を以てするに同省は明治十四年四月の創立に係り爾來今に至るまで全九年の其間に長官の更〓頻繁にして舊令尹の席未だ温かならずして新令尹の信任に〓い舊説未だ行われずして新論〓て起り新舊相半して事務は常に半空に〓り唯粉々の際に九箇年の月日を空うしたりと言うも〓言にあらざるが如し畢竟政變の影響を以て偶然にも農商務省の長官に交代の多かりしことなれども其成跡は〓に一省の不都合のみならず全國農商民の不〓なれば我輩は今後政府が政機の都合の爲めに容易に其長官の地位を動かして民の利害を犠牲にすることなきを祈るとともに竊に今日の現〓を案ずるに今度の岩村大臣は前任諸長官の後を承けても何れの長官の何れの緒を繼ぐ可きや〓分當惑の次第なりと云わざるを得ず之を喩えば前任の諸長官は八宗おのおの門派を殊にしたるが如く銘々の流儀に從いて念佛を念じたるもあらん、題目を唱えたるものもあらん、眞言の秘密、禪宗の坐禪、その信ずる所同じからざりしものなれば新大臣が悉く其緒を繼がんとすれば八宗兼學ならざるを得ず政治上にあるまじきことにして而して今の大臣が正に其局に當るとは苦心のほど想見る可し左れば今の時に當りては政治主義の八宗兼學固より實際に行わる可きにあらざれば新大臣は新大臣にて特色の方針に〓まんことこそ願わしけれ人の言を聞くに岩村大臣は〓落敢斷の資に乏しからず細々小〓事を辨するは其長する所にあらざれども一度び心に得て之を斷行せんとするに當りては會て其針路に躊躇せず繁を去り簡に就き〓に其〓む所に〓む其趣は正に大臣長官の器ある者と云わざるを得ず前年その北海〓長官たりしときも曾て〓細件を問わず新地開拓の要は〓輸交〓の利に在りとの一義を信じて之に力を盡し専ら〓路を開て陸の徃來を便にし海上は〓〓會社と特約して宗谷〓毛の邊にまでも定期航海の線路を〓する等其目的とする所、簡單明白にして其成跡も亦見る可きもの甚だ多し次で農商務省次官に轉じてより特に世間に聞ゆるものなかりしは其事務官たる故を以て恰も其人の器に〓せざりしが爲めならんか然るに今は大臣に榮轉して地位〓に固しとあれば是に於てか始めて其〓落敢斷の技〓を〓くし以て世間の耳目を一新することある可し其次第は他なし前に云へる如く農商務省は八宗の長官〓輪番持の有樣にして九箇年の間その方針の定まらざると同時に法例規則の繁を致し〓雑極まりて殆んど人民の厭い盡す所と爲りたるものを新大臣の敢斷以て〓〓を拂い繁を去りて簡に就き細事を問わずして大禮を守り民業に干渉して之を獎勵するよりも寧ろ之を保護して其自動に任ずるとの大主義を定め唯一の方向に〓んで曾て躊躇せざること其〓と北海〓に在りし時の〓神に〓うことなくんば〓〓農商民の幸福これに〓るものなかる可し農商務の一省をして〓〓〓〓の府たらしむるも又は歡喜幸福の本源たらしむるも大臣の方寸に存するのみ而して今これを其平生に徴するに大臣の器量は斷じて人をして失望せしむることなかる可しと我輩の深く信ずる所なり