「國會議員の交際法」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「國會議員の交際法」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

國會議員の交際法

本年國會議員撰擧の期も最早〓々に〓りたるを以て都鄙其向きの人々の中には撰擧の準備に手を廻わして豫め議員候補者を定めんと奔走盡力するものあり或は其候補者も略ぼ〓に定まりたりとて人名表を作りて之を印行する者もあり因て世上に評判するまにまに未來國會議員の人と爲りを察するに代言人新聞記者縣會議員中の議論家等を始め多くは士族流の人物ならざるなし然るに此士族流の人は讀書推理を重んじて治國平天下を〓々するは最も得意とする所なれども實業に〓く又財産に乏しきのみか他の種類の人にても漸く此流に混ずれば有る財産をも摺り潰す程の次第にして即ち我世態習俗の然らしむる所のものなれば彼の士族流の國會議員は所謂智餘りありて錢足らずの憾なきを得ざることならんと雖どもツラツラ立憲政治國の實〓に照らして國會議員の位地を按ずるに其交際上に錢を要すること少なからず先ず議員候補者と爲りていよいよ撰擧せらるゝ〓には其入費も種々雑多にして例えば英國にてグラツドストン氏の如きは其名望の盛んなるが爲め撰擧區民の撰擧するに任せて自然に議員と爲るようの始末なかれども改撰毎に消費する所は凡そ三千圓に下らずと云う其他名望を均くして互に撰擧を爭うか或は他黨の撰擧區に入りて旗〓を飜さんとする者の如き其費用も莫大にして現に兩三度撰擧爭を爲して相應の身代を摺り潰し〓に身を立つるに困窮して肩書記などに落ちぶれたる者あるは我輩の見聞したる所なり假令へ或は首尾能く當撰するも〓に議員と爲れば國會開塲の其間は首府繁華の地に滯在して其處の集會、彼處の宴席、毎々招かれた出席すれば我れも亦人を招かざる可からずm.p.の肩書あれば其位地品格を保つが爲め旗〓も上等なるを〓みて車馬服飾日常の入費も亦固より少しとせず政治上何々會の發〓あり慈善上何々院の建立とて布施合力の申〓あれば時に之れに應せざる可からず政論粉雑の間に在ちて人氣毎々激昻すれば酒食〓戯も興に乗じて浪費を顧みるに暇あらず盖し西洋諸國人が國會議員たるは〓に有る錢を費して名譽を買わんとする一種の〓樂心に生じることなれば政治界の錢を以て自活の計を立てんとする念なく其交際塲は都て華奢豪興を極めて意とせざるのみか〓來英國などの模樣を見るに國會議員が英國内の政治に就き誰れにも知れ渡りたる事を演説したりとて大に撰擧人の耳を〓かすに足らざるを以て亞米利加、印度、支那、日本等に論なく暫時旅行を試みて奇談異聞の種を仕入るゝ者の少なからず斯くて撰擧區に歸り來りて普〓の政治演説中に外國仕入れの耳慣れぬ奇談異聞を交えれば好奇の人〓これに耳を傾け此人物は吾々の知らざる處を知れりとて自然に其人に重きを置くこと今の日本の俗聞に洋行歸りの〓打を生ずるに異ならず是等の狂言を實地に仕入れて之を演ずるが爲めには錢を費やすこと最も多しと云う斯の如く彼の國會議員等は初めより〓樂の入費を豫算して議員の群に入るものなれば其交際の派手やかなるも左まで意群に入るものなれども我が國會議員たる者は前條〓に陳〓するが如く概ね士族流の人物にして特に第一國會の事なれば其入費の一段に至りて或は未來を〓算せずして至て漠然たる向きなしとも云う可からず或は東西國俗を異にし生計の度も同じからざれば其交際費の如きも多少の相〓はあらんかなれども撰擧の物入りに續きて東京滯留中の諸雑費より帝國代議士の一人として其位地品格を保つが爲め家居衣服從僕車馬萬端の用度を測れば給料八百圓は僅に其一端を辨ずるに〓ぎず特に國會開塲中東京滯在は三箇月なりとするも地方議員は臨時會若くは政黨上の會合に際して時々上京の必要もあるべく演説と云い〓説と云い處々〓廻の塲合もあるべく彼の士族流の國會議員は果して能く此等の費用に堪えて之を支辨する程の用意ありや即ち我輩が四五年前より國會議員眞成の準備は先ず其獨立の財産を作るに在りとて之を勸説したる所以なれども今日と爲りては所謂盗を見て縄を綯う類にして之を説くも事實に益なかる可きが故に我輩は爰に筆端を改め今後我は國會議員たる者の要務は其交際上に於て一種質素の風を導き東洋の豪傑虱を捫て當世の務を談ずるまでに至らざるも車馬服飾宴會〓樂漫に時流の好尚を〓わず豪華社會に對しては嚴格なる局外中立を守る〓〓に居て天下經〓の大策を抱き徒歩國會議事堂に上りて雄辨滿塲を壓倒し高風〓〓凛然として俗交意外に一種の士風を養う一事に在る可しと勸説するものなり若し然らず國會議員が時流を〓いて宴〓歡樂の興に乗じ甚だしきは花柳に〓ち馬を〓〓の下に走らせて金衣公子を學ぶに至らば一家の財政忽ち齟齬して結局金融に行き詰り其融〓を聞かんとして思いも寄らざる筋〓に入り〓み人の爲めに論鋒を曲げ金の爲めに〓操を破り〓には國會の氣〓を維持して其腐敗を防がんとするも勢制止す可からざるに至る可し斯くては我國の國會が縱令へ平和に經〓するも〓に其性質に〓臭を發して内外國人の厭悪を招き結局國辱たるを免がる可からず故に我が國會議員たる者は自から未來を〓算し其財〓に窮せざるに及んで交際法に質素を守る覺悟あらんこと我輩の老婆心に於て偏に勸告する所のものなり