「政務調査に材料を輿ふ可し」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「政務調査に材料を輿ふ可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

政務調査に材料を輿ふ可し

政黨内閣の由來久しき國柄にては政府は國會議場中に半數内外の政敵を有せり而して其の政敵は多くは歴史上の政敵にして自由主義の家筋にては大抵自由黨を出し保守派の箕裘を繼ぐものは概ね保守論者にして固より爲子の爭なれども敵も味方も判然として初めよりその素性を知る可きが故に時の政府に立つものは其反對黨を敵として之を防ぐを先務とすれども我日本國にては之に異なり近來世上に政黨の名はあれ共未だ眞の形を成さず自由黨と云ひ改進黨と云ひ或は獨立黨と云ふも國會開設前の今日、此黨人が議場に立ち實際問題を議論して此問題上に就き派別を生じたるに非ず漠然たる主義綱領に由り臭味を同うする者が假に集合體と爲りたる迄の事にして今後實際の問題に當り黨人の向背如何なる可きや今や政黨混沌界に在りて黨人自身もその方向に迷ひ居るやうの姿なるに政府の方より望見して強て之れに敵味方を附け今日少しく角立ちたる者を直に政敵なりと認めて之を待つに敵意を以てするが如き以ての外の處置にして政府の方略如何に因りては其敵なりと思ふ者が他日國會議場にて却て我味方と爲るやも知る可らず且つ今日の處にては政府も亦混沌中に在りて未だ政黨の形を成さず之を稱して保守主義者なりと云はんか中には民間の自由論者よりも一層自由なる論旨を主張するものもあり然らば急進黨の集合なりやと云ふ國會風の議論も一部に勢力あるものゝ如し政府にして〓〓〓如くなれば民間政黨の有樣は推して知る可し政府が之を友とすれば無二の政友と爲るものもある可く無し又之を敵とすれば悉皆その敵たる可きが故に政府は其臆測を以て強て敵味方の區別を立てず民間に名望ある政事家には平常遠慮なく交り政治上の主義は兔も角も互いに其人物を知り又知られ彼の相互に知らざるに因りて疑心に暗鬼を生ずるの弊を絶こそ智者の事なれ特に〓〓内國の如き政黨以外に超然として公平に國會〓〓〓論を減し又公平に之を取捨せんとするの見込なり〓〓〓〓は假令へ見識の政事家にても先方より却て掛る〓〓〓〓固より之を敵視す可らず況んや本來他志なき人〓〓〓〓〓〓〓〓賞贊す〓〓て〓小政治場に有るまじき〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓の處にて〓〓偉大、民間無數の〓〓〓〓〓〓〓て一議平等に之を朋友〓すること肝要な〓〓〓〓〓〓之を國政〓〓する以上は民論有れば〓〓に〓〓〓〓〓〓〓〓〓に〓〓して互に近寄らるゝ〓けば近〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓にて〓〓黨の知らんとする處は男〓〓〓〓と〓〓して無益に隱蔽する所ある可らず開く所〓〓〓れば〓家民間の各政黨中には政務調査の議を生じ此政黨中の人々が不日國會議院に入りて政務に嘴を容れんとするも政府の事情を審にせざれば論々議々或はその肯緊を失ふの恐れもあらんとて夫れ夫れ其擔任を定めて財政、軍務、教育、司法、農商工務に至るまで出來得る丈けの調査を遂げ一應その調査を終りたるものもあり或いは着手中の者もありと云ふ蓋し政務の種類中には彼の陸海軍務の如く特殊技術的の問題に渉るものあり或は外務教育の如く統計數字のみに因りて論定す可らざるものあり或は其細目に入りて各省官吏の多少より事務の繁閑などに至れば多年來の慣行もあり或は言ふ可らざる關係もありて之を詳知せんとするには親しく政府の人と語り事實と理由とを參照して得失取捨を決せざる可らず然るに今我政府にて彼の民間の黨人を敵とし當人も亦其敵たるを好んで税務調査の場合にも互に相近寄ることなく民間黨は外觀より政府部内を想像して手前勝手の調査書を作り此調査書を土臺として國會議院に政を議し政費の増減、法律の存廢を決したらば雙方の希望正しく齟齬して愈々相近寄るを許さず政府の迷惑は暫く擱き國會平和の點より見ても國の爲めに祝す可き事に非ざるが如し人間社會に積弊あるは免る可らざる事にして特に情實政府中に多少不完全の部分あるは固より以て怪しむに足らず之を蔽ふて事實に益なきのみならず爲めに官民の行違ひを生じて國安を妨ぐ可きが故に政府は度胸を大にして民間一切の黨人に示すに政府部内有りの儘の事實を以てし兔に角に各黨人をして誤りたる事實上には其論礎を築かざらしめんこと今日政府が民間黨に對する最大要の機宜なる可し因循姑息の輩より見れば政府が民間の黨人に向て政務調査の材料を輿ふるは敵に糧を送るものなりとの掛念もあらんと雖ども政治上の得失論は何れも大丈夫の爭なり昔し上杉不識庵が鹽を甲州軍に贈りたるの事例は移して今の政治上に用ふ可し政府に不識庵の侠心あらば假令へ分明なる政敵たりとも政務調査の材料は十分に之を輿へざる可らず況んや今日の民間黨は所謂混沌中に在りて敵も味方も判然せざるに於てをや我政治上の事實は官民互に相知りて事實は事實、議論は議論と明に其分界を立て以て男らしく其得失勝敗を決せんこと我輩が局外より敢て當局者に勸告する所のものなり