「自由の敵」
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時事新報に掲載された「自由の敵」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
自由の敵
國會開塲の期も〓く政治論の次第に喧しきに從て世人の熱心も亦次第に劇しく士族書生流の人々が時として政熱に乗じて世間の耳目を驚かすことあるは深く咎るに足らずと雖も其熱心の頂上に〓して論爭の界を〓し〓に腕力爭闘の沙汰に及ぶが如きは我輩の最も取らざる所なり苟も政治家を以て自から居る者が政治主義の議論よりして互に〓意を生じ其極〓に車夫、土方の風を學んで腕力に訴え兇器を弄び血を流すに至るとは殺風景の極度にして士君子の實に見聞するに〓びざる所なれども如何せん〓來の流行は正しく此殺風景にして誰は其會塲に於て斯々の演説を爲したるが故に反對者の爲めに〓打され辛うじて我家に〓歸りたりと云い某〓に聞きたる懇親會にては會員の間に〓合を始め何某は爲めに負傷したりなど聞くも誠に苦々しき話は我輩の毎度耳にする所なり抑も是等民間の政治家が常に主張して其口〓ともなれるは即ち人民の權利自由を保護する一事に外ならずして今日其政治に奔走して兎角政府に反對する所以も畢竟現政府が人民の權利自由を重んずること充分ならずと思うが故ならん然るに其權利論の張本人は自から自家の所行を省て果して人民の權利自由を輕蔑したる跡あるを發見せざる歟蓋し何人たりとも他の權利自由を害せざる限りは勝手に我思う所を言い我欲する所を行うこと即ち其人の權利自由にして之を制し之を妨ぐる者は例令へ如何なる手段を用いて其目的を〓するも名けて權利自由の敵を云わざるを得ず扨今日民間の政治家と稱する者が〓々腕力を以て反對者を攻撃する其理由を尋ぬれば別に深き意旨〓〓〓〓〓〓〓れの氣に叶わざる者を苦しめて一時の〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓ぎず至極淡泊なるが如くなれど〓〓〓〓〓〓〓たる人に於ては正しく權利自由を害せられ〓るもの〓〓〓其事〓して容易ならず何となれば彼れが云々の説を〓〓〓々の事を行いなるは不都合なりとて反對者に暴行を加えんとする其趣は公然他人に向て言論行爲を禁止し其〓令に背けば刑に處すべしと〓〓するに異ならざればなり新聞絛例集會政〓法の如き〓は〓ち〓なるが如しと雖も其絛目罰則は世間に公布して一定するが故に此方に於て用心して之に〓犯せざるよう樣々其工風もなきにあらざれども獨り彼の腕力主義の政治家即ち世に所謂〓士の暗撃に至ては何時何處にて如何なる原因より如何なること事の發すべき哉之を前知するに由なければ苟も身を重ずる人は常に彼輩に對して我思う所を充分に吐露することを危み家に在る時も外に出る時も戰々競々としてとして其暴行に〓わんことを恐れざる者なし然るに此〓士なるものは〓來大に政治家仲間に珍重せられ其利用する所と爲りて政界を横行して憚る所なきのみならず之を利用する政治家も我は幾名の〓士を支配せり我部下には幾人の〓士を養成せりなど竊に其率る所の多きに誇り何か重大なる政治上の集會等あれば第一に馳集る者は即ち〓士にして議事の事項より投票の結果に至るまで〓慮なく之に干渉して議塲は全く腕力主義の爲めに左右せらるゝと言うも〓言に非ざるが如し左れば少しく思慮ある者は斯る會塲に臨み斯る人々を相手にして我思う所を陳〓するが如き危險に〓づくことを爲さず〓て自から守る外あらざれば政治〓會の事〓ますます殺風景なりと云う可し
政界の事〓斯の如くにして扨又〓士の身の上を尋れば大概皆地方の少年學生士族にして血氣自から禁ずる能わず身に多少の教育を得て生計〓其氣位を滿足せしむるに足らず何か事あれがしと思う折柄政治〓會先〓の人々が臨時の方便として之を用いんとのことなれば〓年の爲めには無上の好機會にして種々樣々の奇相を呈するも敢て怪しむに足らざることなり故に今日政界に腕力の沙汰を聞くは固より面白からずと雖も其罪を尋れば腕力家その人にあらずして其使用者に在り家を焼くは火の罪に非ず放火者の罪なりとして我輩は事の原因を求めんことを欲する者なり抑も政治〓會先〓の人々が〓生唱える所の自由主義とは果して如何なる意味なるや唯時の政府に抵抗して苟も人民の言論行爲を檢束する法令を除去せしむれば夫れにて自由主義の目的を〓したりと爲す歟去りとては又字〓の解釋狭くして誤るものと云わざるを得ず我輩が世人一般と共に知る所の自由とは人々勝手に我初思を行う自由にして之を妨ぐるものは假令へ政府の法律にても又民間政治家の暴行にても聊か異なる所なく〓して之を自由の敵と言わざるを得ず然るに今日民間の政治家は一方に暴力を用いて反對者の言論行爲を妨げ其自由を害しながら他の一方に於ては頻に政府の壓制を咎めて不〓なるが如し咎に傚う者と云う可きのみ