「地方團體」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「地方團體」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

地方團體

數年來我國民の政治思想は〓度に發〓して各地方とも殆んど政熱流行の勢をなし苟も〓黨に面目を保たんとすれば主として政論を唱え政事に奔走せざる可からざる有樣なりしより老〓貧富賢不肖を問わず所在相和して政界の〓動に力を盡し此所に一團、彼所に一體、主義により臭味により又〓實によりて無數の團體を結合し互に優劣を競いて周旋したる其〓動は花々しきものにて區々たる地方の團體も能く天下の耳目を〓動せしむる程なりしが要するに其目的とする所は國會の議塲に勢力を及ぼさんが爲め代議士の撰出を爭うに在りしことなれば今日は〓に撰擧の段落を結了して團體の方針これより漸く一變すべき時機となれり

地方の各團體が是まで政事上に〓動したる實〓を回顧すれば或る〓に於て多少の効能なきに非ざりしかども其分裂競爭によりて地方の懇親を妨げたると政熱上騰の爲めに産業教育等の實利に〓ざかりたるとは全國を概して一般の弊害たりしが如し蓋し中央政治の宜しきを得ると否とは國家の大計に關するのみならず各個の私にも其影響を被むること淺からざれば之が得失を吟味するに怠らざる可きは勿論殊に政體一新の初歩に於ける塲合なれば充分の熱心も然るべき所なれども之と同時に又熱心の弊に罹り黨派の爭論より〓に怨〓相結び餘波小民にまで推及びて隣保親睦の好みを傷くるに至ては陽和〓蕩の天地をして殊更に荒〓〓殺の秋に向わしむる姿にして抑も亦自治の〓〓に背くものなり何れの國にても黨派あれば爰に競爭あり競爭あれば從て不快の事〓を見ることなれども能く其極端の弊害に陥らざる者は事畢ると共に其心事を一轉して漸く平生の〓和に歸復するが故のみ夙に急激を以て聞えたる佛國の學者某氏が經國の要義を自由、平等、〓親を定めて其懇親を捨ること能わざりしが如き亦以て人心〓〓の極〓たるを知るに足るべし然るに〓に演じたる我國各地方の黨爭を見れば甚だ不吉の現象にして反目政〓の〓は今猶お事に觸れ物に當りて〓わるゝという單に政治上より之を觀察するも〓に不得策の限りなれば地方國〓今後の方針は先ず第一に恩仇互に打ち忘れ〓〓一〓を旨として公衆の調和を〓り靜穏の昔に立歸ること何よりの急要なる可し又政熱上騰の爲め産業教育等の實功に〓ざかりたるは前絛にも勝るべき弊害にして彼の黨爭の焼〓たる名譽權勢の如きは忠實なる政事家の敢て求めざる所にして産業教育等立國の大本を養うこそ眞に國政を利するものと云うべけれ〓んや中央政治に關する競爭を以て移して地方の公益を妨るが如きは誠に意外の沙汰と云わざるを得ず地方の公益事業は自から地方の特別にして各々町村の利益を〓め郡縣の利益を〓め延いて一國の利益を〓むべき筈なるに右の順序を〓にして國政上の競爭より郡縣町村の公益を害するに至ては實に悲しむべき誤〓にこそあれ奈何せん〓徃は〓へども歸らず殊に地方人士が盡力の目的たりし撰擧の一事も早や濟み果てたることなれば是れより其趣向を一新して前日の誤〓を正し地方公益の先〓となりて政治思想を誘動發揮したると同樣産業の思想に熱を加えるに至らば事に首尾あり本末ありて團體の團體たる所以こゝに始めて全きを得べし、不幸にして若しも然らず今後も猶中央政治家の離合策略に伴れて其集散に心を傾けて常に動〓を受くる有樣にては政狂ますます狂して殆んど底止する所なく其結果云うに〓びざる可きのみならず前に〓べたる地方の懇親も亦〓に望なきことなるべし即ち地方團體の趣意を貫く最良方便なる上に間接に懇親の實効を助くるものなれば今後の方針を定むるに當て我輩と同感あらんこと竊に冀望に堪えざる所なり

或は云う政黨の効用は議員撰擧以前にあらずして寧ろ撰擧以後にあるものなり今政黨の分子たる地方團體の撰擧以後に於ける政治的〓動をして却て以前に劣る所あらしめんと主張するは必〓政黨の何物たるを解せざる誤なり杯と評するものあらん歟なれども全國無數の政黨員が悉く専門政治家の擧動に傚いて奔々する不可なるは固より申す〓もなく唯隱然の裡に公明なる與論の勢力を蓄えて以て議院を控制する外なければ地方の團體が其方針を産業に移せばとて〓して此控制力を失うべきに非ず〓んや産業の實利害に觸れて之を以て議院を控制するこそ却て其本色なるに於てをや萬一世間の多數が斯る妄想を以て政黨を解釋するに於ては我輩は殘念ながら斷然彼の團體を解散すべしと云う外なきのみ