「小事には冷淡なるべし」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「小事には冷淡なるべし」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

小事には冷淡なるべし

讀者は今尚お記憶さるゝならん去る四月上旬麻布東洋英和學校の教員ラージ氏が兇人の爲めに殺害されたるを以て警〓廳にては外人に關する事だけに一層兇徒の探偵に注意したれども今に至るまで〓に知れず其後築地のサムマー氏は赤坂に於て皇太后の〓簿に對し體を失したりとの疑を受け又明治學院の教師イムブリー氏は高等中學のベースボールを見んと其體操塲に入〓む〓端に無法者を以て取扱われ不幸にも都合三度まで引續いて内外人の間に間〓を生じたるより居留の外國人中には大に猜疑の念を催おし一般の日本人が開港以前の舊感〓を再び〓に顕わしたりと論議せしものさえあり實に〓惑至極の事なれども畢竟彼の人々が猜疑偏頗の心を以て何事をも皆故意に出たるものと思い實際の〓〓を深く究めずして論難することなれば強いて咎るには足らず心あるものは日本人が官民共に外人に對して常に他意なきを知ることならんと我輩も其儘に打捨て置きしに果して日本人の冤を氣の毒に思う外國人もあることゝ見え〓着の米國新聞ボストン トラヴエラーを見るに七月十六日東京發の寄書を載せたり盖し其寄書は始め同新聞其他の外國新聞に右三事件を誤報し一般の日本人が一般の外國人を敵〓するが如く〓載したる〓信に對して其誤を正し事實を報〓せしものにして原文には詳に當時の事〓を〓したれども〓に繁を省きて只その要〓のみに擧げんに左の如し

 此頃ボストン トラヴエラーに「日本に於て外國人に對する戰」と題せし一章あるを見たり且つ其他の諸新聞にも同樣の〓事ありと聞くが故に予(寄書者)は雙方の孰れにも偏せず公平なる觀察を以て聊か事の實際を報ぜんとす抑も該〓事の最〓に〓するもの〓ちラージ氏の虐殺されたるは殆んど六箇月前に〓りし事にして實に悲むべき珍事なりしかども下手人は始めより殺意を帶びて入〓みしにあらずラージ氏に見咎められて止を得ず殺害したるは明白の證據あり或る外國人は其捕縛されざるを疑いて種々臆説を作りしかども無理の甚だしきものと云わざるべからず官吏が其探偵に力を盡したるは實に至れり盡せり予は尚お此上に彼等が力を盡す〓あるを知らざるなり左れば當時は其嫌疑を受けて拘留せられたるもの甚だ多く孰れに對しても充分の詮議を〓げたるに少しの手掛りをも得ること能わざりし只だ手掛りを得ざりしを以て左程までに奔走せし探偵の盡力は世間に判然顕われざれども此等を以て日本人が外國人に對して〓意を挟む證據とするは甚だ無理なり〓に其數月前より米價騰貴して貧民〓加したるが爲め盗賊の難に罹るは日本人にも免るゝ能わざる所にして虐殺の〓りし當時は最も其〓〓を逞うする頃なりし次にサンマー事件は徹頭徹尾事の誤解に出でたるものにして予は何故に左程まで騷ケ敷き問題となりしか其理由を解する能わず第三のイムブリー氏の事件はサムマー事件に付き日本人の感〓を害したるより〓りし結果なり蓋し日本人が外國人に對して反對の感〓を〓す元はと尋ぬれば半ば外國人が自ら招く〓と云わざるべからず此地(日本)に來るものゝ多くは皆日本人に對するに驕傲不遜にして西洋人は上等の人種なり乃公等が此國に居留するは此國の名譽なりと云わぬばかりの調子を以て日本人に接して却て其從順ならざるを責むるものなり實に耻づ可きの到り、是等の事〓を見聞しては時に或は背に汗する程の事さえあれども本日は九十二度の温度にて左なきだに熱さに堪え〓ぬれば餘り激〓するも悪かるべく〓には別に〓さず云々

右原文の〓草者は何人なるか我輩は未だ其人を知らざれども兎に角にラージ氏の不幸に付ては日本政府は充分に其探偵に盡力し又其他の二事件は眞に些細の間〓にして孰れも内外人の關係を云々するに足らざるは外人中にも知悉するもの必ずあるべし總じて間〓と稱するものは雙方の間に事〓の〓ぜざるより〓るものなるが故に風俗〓慣を殊にする西洋人と東洋人との間に在りては今後とても時に或は左る事の生ぜざるを〓し難し〓に止を得ざる次第なれば成るべく冷淡に看〓し事の疑わしきは輕きに從いて容易に先方に罪を歸せざるよう雙方より注意して交際の圓滑を謀らんこと希望に堪えざる所なり