「宜しく政費節減案の第一筆たるべし」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「宜しく政費節減案の第一筆たるべし」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

宜しく政費節減案の第一筆たるべし

帝國議會開設の日已に〓りて、民間各政黨の政務調査亦漸此々忙しきに似たり、聞く所に據れば調査の第一要義は冗官を癈して内務省の一局と爲すが如き名案大策も皆夫々に取調べ相〓び居るよしなればいよいよ議會開塲の日には定めて花々しき舌戰もあることなるべし併し今日の事〓より考えるに此等の大策名案は縱令へ國家の利益たる可きにもせよ之れを實施せんとするには種々の異論反對に〓いて意の如くならざることもある可ければ差向きの處は手〓かなる小〓〓の實施し易きものより着手する方却て〓徑ならんと我輩の信ずる所なり例えば政府が明治十年第十五國立銀行より借入れたる彼の征討費の〓却處分を〓行するが如きは此の類にして事甚だ簡單にして國庫に利する所は〓して少々ならず抑も征討費借入の由來は明治十年西南戰爭の際、軍費多端にして國庫の歳出入相償わざるより第十五國立銀行と特約を結び同行の營業年限を期限とし年利五分にて一千五百萬圓を借用したるものにして爾後國債の一科目として年々七十五萬圓の利子を拂い來りしが明治十六年度に至り元金の内五百萬圓を償却して一千萬圓に〓じたると同時に此一千萬圓に對する利子の割合を七分五厘に引上げ元金は已に五百萬圓を〓却したるに拘らず利息は以前の如く矢張七十五萬圓宛を支拂い尚お今日に持續するものなりと云う故に今整理公債絛例に據りて新に五分利付の公債一千萬圓を募りて十五國立銀行の借金を一事に〓却する時は利子高低の差二分五厘の〓算にて國庫は自今年々二十五萬圓の負擔を免がるゝことを得べし少からざる〓〓なりと云うべし、且夫れ政府が十五國立銀行に對して斯くまでに寛大の約束したるは此征討費を借用したるが爲め戰亂を〓撫し得たりとて其功に報いる意なりしか〓又〓に〓〓事〓ありしが其邊は知る可からずと雖も天下一般に行わるゝ金利の割合に比して政府の負債たる一千萬圓の大金に年七分五厘の利子とは理財上の〓合を得たるものにあらず〓んや其利子も前に五分にして後に特に七分五厘に〓したりとありてはいよいよ〓分の沙汰と云わざる可からず云々とは當時喧しき世論なりしのみならず其後明治十九年十月政府は整理公債絛例を發布し之に依りて六分利以上の諸公債を償却し國債の利子を都て五分に引下げんとの政策を實施したるに際し世人は征討費こそ整理處分の第一番なれと思いしに金〓公債の整理は無慮數千萬圓に〓しながら征討費は依然として〓附の沙汰なきより隨分物論もありし程の次第なれば今日斷して其〓附を實行するに於て其功〓に政費を〓〓するのみに止らず亦以て大に議會の公明偏頗なきことを世に表章するに足るべし

人或は云く征討費の貸借間には自ら軍功の意味あるが故に尋常一樣の公債と同一に處分するは〓に於て〓び難しとの説あれども此種の事例は一にして足らず例えば維新の功臣に賜わりたる賞典〓も今は公債證書と變じて已に〓に整理せられたるもの少なからず又人〓を以て論ずれば整理公債絛例の實行に際して第一番に整理の處分を受けたる金〓公債證書は更に一層〓ぶ可からざるものあるが如し即ち同證書は元と舊各藩の士族に授けたるものにして爾來賣買少からずと雖も今尚士族の之に依頼するもの多きのみならず中には〓〓孤獨にして勤勞に堪えず所有の公債證書を唯一無二の資産として僅に生命を繋ぐものが一朝にして利子の〓少に〓い恰も身を削らるゝ〓〓に陷るにも拘わらず政府は財政整理の爲めにとて七分利に易るに五分利を以てして曾て憚る色なき其反對に日本國中富貴の最上に位する華族に向ては特に高利を拂い其理由を問えば人〓に〓びずと云う貧〓に薄くして富大に厚きが如し我輩の感服せざる所のものなり