「總理大臣の演説」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「總理大臣の演説」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

總理大臣の演説

昨六日山縣總理大臣が衆議院に出席して施政の方針を演説したる其旨意は本紙の雜報欄内に見える所の如し議會開設の始めに際し内閣と衆議院との對面なれば如何なる事を〓ぶべきやとて世間の待設け樣々なりしに其演説の要旨は鎖國數百年宇内の大勢に後れたるを〓捗せしむべしと云い又は内に實力を養い外に國勢を張らざる可からずと云い或は獨立自衛の基礎を固くせんが爲めに陸海軍の擴張を努むべしと云うに〓ぎずして施政の方針には相〓なけれども政務の時事に緊切して直ちに人心に中るものに非ざれば之を國勢の大體論と云い外なきが如し如何となれば此等の事は明治の初年に於て演説するも可なり明治十年前後にても不可なることなく乃至二十三年の今日にも同樣にして開國以來年として此演説を妨ぐる年なければなり左れば昨日の演説は殆んど無益なるに似たれども其漠然として些の病なきは今の世界の事〓に照して最も宜しきを得たるものならん歟蓋し國内大小の政治家がおのおの相分立して讓る所なく政黨の組織未だ其形を成さずして粉々歸着せざること今日の如き時〓に際し若しも目前直接の事項に論及して取捨去就を明辨するときは其演説より又他の事〓を釀出して徒らに統一の方向を動揺するに足るべきのみ得策に非るが如し今夫れ議會の開設を見て是非とも之に萬能の府たらんことを望み政府も共に共に提携して國務の整頓を一時に急がんとするに於ては總理大臣の演説も更に歩を〓めて實際に深入し一切の方針を暴露すべきなれども我輩は〓して此の一事の整頓を望まず毎々折に觸れて陳べたる如く帝國議會も初會期より當分の間は唯その雛形を〓くるのみの事として敢て實効を擧るに及ばず儀式同樣にて〓も可なりと云う者なれば國會の成長發〓したる後は兎も角も夫れ〓の所は總理大臣の演説なりとて西洋諸國の事例に傚うは無用なるのみ同じく儀式に止まる可きものとして今回の演説の至極妙なるを賛するものなり