「窮民救助法」

last updated: 2019-09-29

このページについて

時事新報に掲載された「窮民救助法」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

窮民救助法

政府提出の議案にして目下衆議院にて審議中なる窮民救助法は如何なる趣意に出でたるものなりやと云うに其説明に依るに從來の救助法は僅に〓募孤獨を〓濟するに止まりて其他の窮民を救助する効あるものにあらず然るに世事の頻繁なるに隨て人民の窮厄に陷るものの多きは勢の免れざる所にして之を世の慈善家の義捐救助に一任するは永〓の策にあらず左りとて之を國費に抑くも限りある歳入にて能くす可きに非ざれば〓に法律を設けて地方團體中人民相互の〓務と爲し一は自治制と〓行して同胞相救う務を盡さしめ一は慈善家濫施の弊を防ぎて救助方を〓當ならしむると云うに在り抑も〓募孤獨無告の窮民あるは古今の〓會に免れざる所にして之を人生の至〓に訴えて救〓の法なかる可からず即ち古今東西の別なく諸國ともに貧民救助の事ある所以にして其方法は國に由りて異なれども何れも人〓を本として之を實際に應用したるものに外ならず從來東洋の諸國に行われたる〓〓主義もしくは歐洲の古代雅典其他の諸國に行われたる貧富〓均政略の如きは暫く〓き西洋諸國現行の救助法を見るに各國皆多少の相〓ありと雖も要するに何れも宗教に属する教會の類が主として其事に當り政府は唯國費を以て不足を〓助する〓〓ならざるはなし或は時勢の變〓に隨い又は國々の事〓に由りて其方法も次第に變化なきにあらざれども其事たるや元來人〓に基くものなるが故に多くは舊價〓俗に訴える風にして全國畫一の新法を設け之を強行する例は甚だ稀れなるが如し我國に於ても德川政府の時代には封建政治の常として各藩ともに窮民の始末の行届きたるは勿論なれども民間にも自ら一種の美風ありて〓黨〓里互に相救う俗を成したるや疑い可からず維新以來政治の仕組一變して政府の救〓は徃時の如く周到ならざれども事の實際に於ては甚しき不都合もなく以て今日に至りしものは畢竟民間に此風〓の存せしが爲めならんのみ左れば今回の議案に就き政府の目的は如何と云うに元來救貧の事たる其利害一ならずして彼の慈善家の施與の如きは其の〓固より少なからざるのみならず又今日は自治制度の施行もありて〓黨間の〓俗も多少舊慣を改めたる所もなきにあらざれば政府に於ても此に見る所あり從來の風〓に基き其〓〓の在る所を匡し更に今日の實際に〓切なる法を設けんとならば自から一説として見る可きなれども議案の〓〓を察すれば大に然らざるものあるが如し前〓説明書の要旨にも世事の頻繁なるに隨て窮民の〓加するは勢の免れざる所なれども從來の法は僅に〓募孤獨を〓むに止まりて其他の窮民に及ばずと云い又議塲に於ける政府委員の説明にも本案は目下の急を救うが爲めにあらずして永〓の計に出づるものなりとの説よりすれば今回の救助法なるものは從來の窮民〓濟の法とは大に意味を異にし今後〓會の有樣に於て窮民の益々〓加す可きを期し豫め其必要に應ずる計畫として見ざるを得ず果して然らば自から是れ經世上の大問題にして容易に〓す可きものにあらず顧うに今後〓會人事の繁多に赴くと共に窮民の次第に〓加するは勢の自〓にして隨て之が爲めに〓を〓會に及ぼす事もなきに〓たれば豫め其處分法を講ずるは今日の急務に相するは思いも寄らぬ次第にして從來の慣〓を外にし更に救助の公門を開くときは窮民の此門に群集するは目前の事にして支出に限りあるは獨り政府の歳入のみならず限りある公費は限りなき窮民を如何す可きや或は法の〓〓は不愚癈疾以下其他の災厄の爲め自活の力なく饑餓に〓るものを救う意にして一般の窮民に及ぼすものにあらずと辨解するものもあらんなれども災厄と云えば天事人事の別ある可からずして今後〓會の大勢に〓られ自活の力なく饑餓に陷るものとても即ち災厄の爲めに外ならざれば之を救助の門外に拒絶する理はなかる可し議案の〓〓は果して此邊に在るや否や其〓〓にして從來の舊慣に多少の修正を加え所謂〓募孤獨を救〓する旨ならば自ら一説として見る可きなれども若しも然らずして後來限りなき〓會の窮民に向い大に公費の門を開かんとするものならんには我輩は斷じて不同意を唱える者なり  (以下次號)