「世界の風潮」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「世界の風潮」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

世界の風潮

 在英國の〓信〓植村氏より歐米諸國本年中の出來事とて彼の政治〓に商賣上の著しき〓事を抄〓して本〓に寄〓したり偶ま本年の終に〓い載て以て〓説に代る

世界の風潮と云えば如何にも漠然たる書き出しなれども世人の常に〓々評論する變化極りなき第十九世〓中にても今や〓さに走り去らんとする今年は實に意外に變動の多く且烈しかりし一年なりと云いて可なるべし〓〓の變〓動〓も日本に居りて外國新聞の譯文を時々〓〓〓みしたるのみにては左程〓に腦〓に感觸を與えたるべしと〓えども〓地に居て日々其事變の發するに〓〓〓〓〓を〓て〓〓するときは宇宙は一國の如く各〓〓〓〓〓する時々の事相は恰も一夜の演劇壇上に目〓〓〓〓〓〓〓〓〓如し〓〓に存する重大の變動〓〓〓〓〓〓〓〓〓一〓〓〓さんとす今日列國〓立して〓〓〓〓〓すと雖ども亦一方より見れば全世界は一〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓向て一〓を〓ずる者あれば其水〓は〓〓〓〓〓〓〓〓〓多少〓影響を〓らざる所なし讀者〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓以て自國に關係する所なしと誤想する勿れ

先ず歐洲大陸より看來らば日耳曼にて大宰相の交〓は實に意外にして其結果も多くの傍勸者には又意外なるべし前大宰相ビスマルク侯は鐡血宰相と〓呼ばれ其勲功履歴等より推して内外人の想像したる所にては今帝ウイルヘルム第二世に如何なる果斷あるも侯を〓くることは能わざるべしと思いしなるべし〓に侯が常備兵〓加案を國會に提出して其説明の大演説をなし之を結ぶに〓り〓言して曰く我々獨〓人民は天下到る所に上帝の外に恐る可き者なしと滿塲の議員之を聞き了と寂として聲なかりしと云う此一言は爾後獨〓人の口の膾炙すと聞けり如何にも侯が此言を斷じて發したるは必ずしも誇大の謗を招きたるには非ざりしならん然れども當時侯の心中には「乃公ビスマルクは獨〓國内に於て上帝の外に恐るべき者あることなし」と謂いしことなるべし亦人も之を侯に許したることならん、左れども人心は變動し易く人事は意外に〓るものと見え古來比類少き人傑ビスマルク侯も亦人世の風潮を制すること能わずして〓然其要地を去て西海の濱に耕すべき〓に〓い滿胸の不平を機關新聞に依て世間に表發し人亦其不〓を憐む者なきに非ざれども侯の威望は却て衰えるのみ之に反して幼年の新帝として世人の信用淺かりしウイヘルム第二世は新任の大宰相と相得て文武の百政を勵み與國に對する友誼を益々温め敵國に對する威勢を益々張る器量を示したり實に人をしてホーヘンツオーレルン王家に英明の君主多きを驚歎せしむるに至れり唯不可思議なるは今帝をして英主たらしめたる者は即ち其英主なりと云う人或は侯の一世を評して其志を續ぐ者を残す用意なかりしと云えども侯を〓けたる新帝こそ眞に侯の志を續ぐ者の如し豊亦奇ならずや之れに次て日耳曼に〓りし大事件は英國と亞非利加殖民地に關する新絛約を結び其一項としてヘリゴランド嶋を英國より讓受け以て日耳曼本土の國境を完備し多年の宿望を〓して民心を歡喜せしめ次て日耳曼内政の一大〓として内外人に指摘せられたる〓會黨〓歴絛例の終期に〓して自から癈止に至り秘密の會合を公開し陰險の嫌疑を受けたる主義をして〓天白日に討論し却て其〓〓を表露して〓會黨員は其勢力〓殺すべしと云う者あるに至れり是亦意外の成蹟と云う可し

佛國の歐洲に孤立して列國〓衡上に其鼎重を失うものゝ如しとは廣く世人の察知する所なりしが一朝「〓〓〓〓の内幕」と稱する事項フイガロ新聞に現われ佛國政論の醜體を世界に披露し其結果は武〓軍の匹夫賤丈夫たることを證明するに止まらず一公爵夫人の巾着金僅かに一百萬圓は佛國人民を買い上ぐるに足りしことを證し堂々たるブルボン王黨の首領も其私利の爲めには不倶戴天の仇人にも甘じて交を〓ずるを耻じざるまでに其公〓〓えたることを示したり右の新聞〓事は現共和政府の地位を固くしたること少なからずと雖ども佛國男兒の價直を落したることは更に大なりとす能く此汚名を〓ぐは幾多の年月を要せんのみ

葡萄牙は歐洲極南の小國を以て英國の不滿を買い〓て英政府を承服せしむるを得ず又〓て人心を滿足せしむるを得ず其政府は久しく〓〓維れ谷まりて爲す所を知らず或は廣く歐洲の與論を喚起して英國政府の請求を緩めんと企つるも佛國の新聞紙が之に聲援を假すのみにして眞實に顧る者なし之に反して口舌を焦爛して國權を論し國辱を説くも英國政府は恰も木偶人の如く其論説に〓毫の力あらず若し古の孟〓〓き來らば小國を以て大國に事える衛を教えるに如何なる言を以てすべき乎

英國政府は其内政上に志を得ずして失敗を重ねたるも大藏大臣の財政策僅かに人心を維ぎ之れに加えるにソールズベリー侯の外交策には非常の繁忙を極め歴史家の永く忘るゝを得ざる波蘭土分割に千百倍すべき亞非利加大陸の分割を實行せり其順序は東岸の中部に關しては日耳曼と相談して境界を定め之に掌大の〓〓を與えて其自負心を滿足せしめ以て他に幾多の利益を占め且一般に日耳曼の政策をして英國の外交政策と衝突する所なからしめんと計りて之れを〓したるが如し此一〓は日本人の直接に思い當ることあるも知る可からず次に亞非利加北西部より中央に互りて佛國との境界を定め生來の敵國ながらも妙に熟議成りて佛人に滿足を與へ一方には殆んど二百年持續きのニユーフアウンドランドの漁〓權に關する英佛間の粉議は其儘に措て更に商議することゝなしたり之に次て伊太利と亞非利加の東北岸紅海地方に關する境界を議し一たび〓議に〓んとして中絶せり而して〓に〓意すべきは英國は埃土國の後見人として此議に與る一〓なり今日に至るまで英國が埃土地方に有する權限は實に曖昧なりと雖ども今回英國政府の爲す所は佛人も見て見ざるが如し是れ〓きに佛人に〓わする所ありしに由るか今日以後埃土に於る英國の地歩は愈々〓固なりと謂うべきなり其他英國外務省は北米合衆國とヘーリング海峡の水〓權を爭い互に押問答に日子を費し米國政府は其自黨に人望を結ぶ好結果を得んと計るものゝ如し又支那政府に〓りて揚子江上流に在る重慶府を開かしめたるは第二の上海を英國の東洋市塲に加えたるものなれば英國の外交策の一〓歩と看做す價あるべし亦瑞西國内の獨立州チシノに革命を生じて人心を滿足せしめたるは其關する所狭少なりと雖も執權者の腐敗して人心を〓しめ終に之れを怒らしむる結果は古今を〓じて一轍なり然るに此觀易き〓理に背き自ら〓するを狂愚者尚お世に在ることを證明したるのみ識者の〓歎して止む能わざる所なり又バルカン半嶋諸國は徐々に土耳古國の制御を脱し各自に其獨立を得る〓に〓めり而して歐洲戰亂の種子を此地方に〓う掛念は未だ曾て絶えざるなり

〓會上〓に經濟上に於て最も世人の〓意を惹きしは日耳曼帝が歐洲各國の代理者を伯林に招待して勞働者保護の疑問を國際協議に附したる事又同時にブリユツセル府にて奴隷金氏の法案を各國共に協議したる事是れなり此案は未だ實効を奏せずと雖ども小國の〓〓政府が強大國の勢力に反抗して今日に至るは亦意外なる〓果と請うべきなり又英國本土〓に其〓〓殖民地に於て古今未曾有の資本と勞働との合戦を生じ各地に於て大抵絶えず同一の粉議を〓し其〓合の〓〓〓に結合の強大力に就き實に世人を驚かし英國産〓家の〓議を煩わしたること實に〓少ならず頃者英國内地の船主及び〓〓會〓は互に氣〓を〓して萬一已むを得ざるときは〓く各港の船舶出入を停止するに至るべしと〓心して其準備に着手するまでに爭議を切〓ならしめたり此一事は英國全體の殖産に容易ならざる損失を蒙らしむること疑なきが如し

之より一轉して西〓球を一顧するに昨年十一月中頃に南米にブラジル合衆共和國を〓り出し國民の〓ねて愛慕せし英明の老帝は全く跡を暗まして全國は新政體を以て先ず落附きたるか如し其他アルヂエンチン共和國の内亂、中央亞米利加の戰爭は共に歐洲の金融市塲に影響する所ありしならんと雖ども其政治上には大に關係する所なきが如し獨り全世界を動揺する力ありしは北米合衆國の銀塊買入の絛例〓に輸入税〓加のマツキンレー絛例是れなり實に米國は武力を蓄えず又外國交渉を好まざるを以て世界の列國間に政治上に〓動すること殆んど絶無と謂う可かれどもワシントン府政事堂上にて國會議員數人の方寸は能く富強を以て自から任ずる歐洲大國の老政事家をして或は喜ばしめ或は泣かしむるを得べし又其一擧一動は以て萬國市塲の金穴をして狂奔せしむるに足れり英人が米國の新保護策を徹頭徹尾排斥して罵詈を極むと雖ども其結果を恐るゝは實に明瞭なり或は之を〓してナポレオン第一世の宣言せし英國絶交策よりも尚お一層不法なりと論ぜり日耳曼墺太利等は米國に對して復仇の財政策を行わんと云い露國を除く外全歐洲合同して米國に當るべしと發議する者あるに至れり然れども是れ架空の漫言のみ英國の與論は〓に異口同音に復仇の無益なるを説き君子を氣取て怨みに窮するものゝ如し否な強いて之を計らば自ら傷くるに〓ぎず故に其高德を語るは恰も赤貧漢が儉德を以て誇る趣あり又米國の銀塊買入策は財政當局者の思慮を煩すこと實に非常なりと見え爲めに〓和の時に類例なき投機を生じ英國の整理公債證書の如き證券まで古來珍しき價格の變動を見たりと云う必竟大國の放〓なる擧作よりして小國を動揺するは其兵器の妄用〓に會計簿の濫用倶に〓伯仲せり前〓米國今年の新法案は或は多年繼續するとも或は政權授受の爲めに變更するとも再び全世界を惱ます力ありと豫期すべきのみ

○誤字 昨日の〓説第五行九千四百三十四萬圓餘とあるは九百四十三萬四千圓餘の誤りなり