「議會の自重」
このページについて
時事新報に掲載された「議會の自重」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
議會の自重
國會に對する政府の覺悟如何は世人の一般に着目する所なりしに愈よ開會の今日に至りて見れば其擧動なかなかに目覺ましく總理大臣は親から施政の方針を示し大藏大臣は豫算を説明し其他各大臣も議院の質問に應じ猶豫なく議塲に出でて辯明を爲す等その有樣は口にこそ云はねども自から責任内閣の實を期するものの如くにして覺悟の活溌なるは蓋し對局の議員に於ても案外の思を爲すことならん然るに顧みて議會の景况を見れば開會以來頗る混雜の有樣にして未だ一定の略なきものの如し固より初度の議會にして議員中には議事の〓〓にさへ慣れざる者も多きのみならず我國にては年來政黨云云の談喧しきにも拘はらず實際に於ては純然たる政黨の實を見る能はざるの今日なれば所謂議院政略の一定せざるも敢て咎む可きに非ず元來我輩は初度の議會に多を求めず其體面に關せざるものの外は大抵にして無事の終結を望む者なれども兎に角に議會が政府に對する後來の慣例を作るは初度の議塲の體裁如何に存すること多きに一方の覺悟は斯の如くにして一方の有樣は〓が如くなるを見ては大に遺憾の情なきを得ず〓〓時の〓急を卜し或は進んで戰ひ或は退て守る其間にも奇正縱横、敵を制するが如き議院戰略は之を今日の議會に望む可らざるは勿論なれども其攻守の略を外にして議會自から其體面を保つの一義は之を議員たる一個人の〓〓に訴へて銘銘其覺悟なかる可らず况んや其對局たる政府の人人は十分の决心を以て議會に〓するの〓意既に分明なるに於てをや近日來議會の有樣を見るに政府より提出したる重要の議案は未だ調査を〓終らざる其中に各議員の建議案は續續跡を接し甲〓〓〓〓〓の改正案を提出すれば乙は出〓云云の改正〓〓〓〓内の地租云云の議に引續き丁の納税期改正の〓〓〓〓〓〓〓と〓〓の〓なきに非ず思ふに各員提出の〓〓〓〓〓も重要の〓件にして且急を要するに相違なき〓とならんと雖も今日の如く競爭の有樣にして同一もしくは類似の事柄にても銘銘思ひ思ひの意見を持出し之を議に付するが如き爲體にては其議决の有樣も亦思ひ遣らるる次第にして折角重要の議案も却て其終を善くせざるのみならず外より見れば議會自から之を提出しながら又自から之を破るものにして體面に關係なしと云ふ可らざるなり彼の議員逮捕云云の事件の如きは議會の認めて以て急要の問題と爲し開會の當初より口を極めて喋喋したる所なれども其成行を見て外より之を想像すれば進んでは斷然の處置に出づる能はず退ては自から其始末に困却するの地位に陷りたる觀なきにあらず當初は議會自から重んずるの精神に出でたるやも知る可らずと雖も今日の有樣にては自から輕んずるの結果を來したるものと云はざるを得ず之を要するに昨今議塲の情態は銘銘一騎拔駈の功名に忙しくして議會全體の體面を維持するの精神に至りては尚ほ未だ足らざるものあるが如し然り而して此事相たる從來社會に行はれたる黨派軋轢の結果として次第に士人の器局を狹小にし人人只管細事に競爭するの弊習を偶ま議會の言論に表白したるものに外ならざれば怪しむにも足らず又咎むるにも足らざれども議會の體面に至りては其關係する所、大にして一個人の事に非ず我輩は議員の身分重くして徳望の高きを知り之を我政治社會の君子として疑はざる者なれば斯る事に就て多言するを欲せず唯銘銘の本心に訴へて政府の覺悟に對し將た議會の將來を思ふて只管其自重を祈る者なり