「歐洲諸國に於ける賃銀と關税」
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本文
歐洲諸國に於ける賃銀と關税(昨日の續)
余は左に二表を示す可し一は伊太利、独逸、瑞西、露西亞、佛蘭西、白耳義及び英國の賃銀表にして一は歐洲諸國に於ける各商品の關税を表記したるものなり賃銀の表に就ては余は唯成るたけ精密にして成るたけ正確に調査したりと言ふに過ぎざる可し如何となれば是より以上細密なる調査を爲すは實際に能はざるのみならず却て誤に陥るの恐なきに非ざればなり抑も賃銀の割合は一國一都府もしくは一製造所内に於ても相異あるものにして之を表記するには平均の數を以てするの外ある可らず例へば伯林の煉瓦積職人は一日九十八仙より一弗二十仙の賃銀を得れども獨逸全體の平均を見れば同職工の賃銀一日五六十仙以上のものとてはなく且つ伯林に於ける生活の費用は全國の最上に位するものなるが故に余は是等の事情を斟酌し表中に獨逸左官の賃銀を一日六十仙と記したるが如き以て其他を類推す可し
又露國人の勞働は一年間九個月に過ぎざるを以て其賃銀の割合も實際勞働に服する時日上より計算したり一年間の平均を得んとするには九個月間の賃銀の總額より四分の一を引去るを以て計算上、正當と爲す可きが如くなれども斯くては却て事の眞相を失ふに至る可し如何となれば露國人は唯九個月間眞の生活を爲すものにて其他三個月間の冬季は何事をも爲さず又何物をも費さず一日僅に五六仙の費用にて熊の如く小屋の中に冬籠りするに過ぎざればなり右の理由よりして余は露国の一年を九月と見做して其賃銀を計算したるなり
右の表に據れば歐洲諸國の賃銀の高きと共に又その生活の費用の少なからざるを知るに足る可し盖し賃銀の高低は生活の費用の多少に伴ふものにして各國皆な然らざるはなし然るに我輩の怪訝に堪へざるは我國の事相にして賃銀の彼の國々に比して低廉なるは固より其處なれども官吏の俸給の社會一般の生活に比較して非常に多額なるは海外の諸國にも其例を見ざる所なり近來政府に改革の沙汰ありて官吏社會の恐惶一方ならざる由なれども畢竟平生の俸給が他の賃銀に割合して高きが故に官海の外に職を求めて同額の錢を得るに困難の事情あるを以てなり本編の譯文中に歐洲諸國貧困の原因を數へて官吏の浪費を其一に擧げたれども我國の現状も亦この弊を免れずして殊に甚しきものと云ふ可し左れば今回の改革にも官吏の數を減ずると共に大に其俸給を減じて社會一般の生活と平均の程度に至らしむ可きのみ(時事新報記者附言) (畢)
歐洲諸國賃銀比較表
職業 伊太利 獨逸 瑞西 露西亞 佛蘭西 英吉利 白耳義
靴職 、四〇−、八四 、八四−、九六 、六〇−一、〇〇 、七五−一二〇 、七九 一、二〇−一、四〇 、九〇
煉瓦燒 、六〇 、四〇−、六〇 一、二一
日雇 、二〇−、四〇 、二四−、四八 、四〇−、六〇 、二一−、五〇 、六六 、八二
左官 、五〇−、七〇 、六〇−、七二 、七〇−、九〇 、七五−一、〇〇 一、八一 、五五−、八〇
鍛冶 、六〇−、七五 、六〇−、七二 、七五 、八七−一、一八 、八〇−、九二 一、四二 、七〇−、九〇、
大工指物師、四〇−、六〇 、七二−、九六 一、〇〇 、八七−一、三二 、九〇 一、三四−一、五四 、六二−、八〇
〓〓師 、七二−、八四 、九〇−一、〇〇 、九四−一、三四 一、〇二 、八〇−、九〇
〓〓取扱人 、九六 一、〇〇−一、四七 一、五〇 、九十三−一、〇八
瓦斯點始人 、五一−、八四 一、五〇
ガラス匠 、四八−、七二 、八〇−一、〇〇 一、一五
塗師表具師 、七六 、六五−、七二 、九〇−一、二〇 、八一 、八〇−一、〇〇 一、一七−一、五〇 、六五
鉛細工 、六〇−、六五 、六〇 、九一 、八〇−一、二〇 一、二七 、六八−一、〇〇
籖女 、二〇−、四〇 、三七二分一 、四〇 、五〇−、六〇 、六九 、四〇
同男 、二五−、五〇 、六〇 、六六 、六〇−、九〇 一、二〇−一、四二 、六〇
毛梳職 、四八−、八四 、四〇 、八〇−一、〇〇 一、二〇−一、八〇
同女 、四三 、三三三分一 、四〇−、六〇 、九〇
紡績女 、三七二分一 、四〇 、二五 、五〇−、七〇 、九〇 、四〇
同男 、六〇−、七二 、六六 、三六 、六〇−、八〇 一、一五 、六〇
コート裁縫 、九六−一、九二 一、三三−三、三三
同〓方 、九六−一、九二 二、〇〇−五、〇〇
ヅボン裁縫 、七二−、九四 一、四一−四、一〇
同女 、六〇−、七二 一、三〇−二、六六
機械師 、五〇−、八〇 、五一−、八四 一、〇〇−一、一五 、八〇−一、二〇 一、五〇−二、三〇
火夫 、六〇−、七二 、三〇−、五〇 、八〇−、九〇 、八一−一、二〇
木挽 、六〇 一、〇〇−一、三〇
製紙職 、三六−、四二 、五〇−、六〇 、三六−、五〇 、六一−、九六 、三〇−、五五
同熟練者 、五二−、七八 、五〇 、八一−一、二〇 、六〇−一、九〇
パン師 、六五 、六〇 、四六−、八〇 、九二 一、〇八−一、一六 、五五
印刷職 、五〇−、七六 、八〇 、四四−、八〇 、八〇 一、〇〇−一、五〇 、六〇−、七五
ガラス製造、八〇−一、五〇 一、〇〇 、五〇−一、〇〇 二、〇〇−三、〇〇
同助手 、五〇−、六〇 、三六−、六〇 、八〇 、三〇−、五〇 、五五−、七〇
〓〓師 、七〇−一、〇〇 、六〇−、八四 、九〇−一、〇〇 一、〇〇 、七〇−一、二〇 一、〇〇−一、六八 、八五
機械職工 、五〇−、八〇 、四八−、九六 一、二〇−一、五〇 一、〇〇−一、六〇 一、三七
同見習 、四〇−、六〇 、三六−、七二 、六〇−一、二〇 、三三三分一 、八〇−一、二〇 、八七−、九六
牧羊 、〇二−、〇七
時計師 、四八−、九六 、六〇−一、五〇
亞鉛細工 、六〇 、六一 、六〇−、七〇 一、〇〇 、七三−一、一〇 一、〇〇−一、二一
(注意)本表は一日の賃銀を記したるものにて「、」點は弗の位を示し點以上は弗以下は仙と知るべし
歐洲諸國關税比較表
品目 伊太利 獨逸 墺地利 瑞西 露西亞
羅紗物 四、六〇−六〇、〇〇 一封度ニ付 、六五 五五、〇〇 三、八六−九、七二 一封度ニ付 一、〇八
〓紙 一二、五〇
毛布 二二、〇〇 二、三二−五、八〇
毛絲編物 二七、五〇−六〇、〇〇
〓皮 五、〇〇 一プードニ付一〇、八〇
絨緞 二五、〇〇 三、八二−九、七二 一封度 、四五
毛皮 一二、〇〇
生絲及レース 二五〇、〇〇
絹布 二封度四分一 一、二〇 七、七〇−一一、五八
〓内及〓〓 四、七六 、七七 一プード 、九六
繪具 五、七九
窓ガラス 一、五四−四、八二 一プード 四、〇〇
鏡ガラス 三、〇八−七、七二
靴 一七、五〇 六、七五−一五、四四
時計 一個ニ付、三五−七、一 三七、五〇 三、〇八
柱時計 三七、五〇 五、七〓
汽〓車 一、九三
銕 一噸ニ付七、五〇−三七、五〇 、一一
レール 、三三
鉄線 三、〇〇 、二五
小麥 、七二
綿絲 一一、四二−一六、六六
燐寸 二、三八
貴石 一四、二八 五二八、〇〇
硝子 一個ニ付 、五〇 五、七九−一九、三〇 一、二〇−四、三八
牛 一頭ニ付七、一四
釘 、五〇−三、五〇
車 七、七二−一一、五八
石炭 一噸ニ付 一、〇〇
客車 、〇八
(注意)第一 表中別に其量を記せざる者は二百二十封度の關税額なりと知る可し第二 露國の一プードは三十六封度七に相當するものなり第三 、點を以て弗位となすこと前表に同じ第四 品目の下に税額を記入せざるもの多しと雖も之は無税なるが爲めに非ず記者不幸にして其詳細の表を得ざりしが爲めのみ