「文部省官制の趣旨を明にす可し」
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時事新報に掲載された「文部省官制の趣旨を明にす可し」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
文部省官制の趣旨を明にす可し
文部省官制の第一條に文部大臣は教育學問に關する事務を管理すとあり事務を管理するとは元來如何なる意味なりやと云ふに陸海軍大臣が其軍政を管理するが如きは姑く別として農商務大臣が水産鑛山等の事務を管理し逓信大臣が航海船舶等の事務を管理するは當該大臣が自から其事に當るものに非ずして唯その事に關する大體を法律上に支配するの意味なる可し或は逓信省の所轄中にて郵便電信の事の如きは實際の經驗に於て政府にて處理するを便利と爲すの事情もあることなれば之れは取除けとして他は都て當局者が自から手を下すに非ず唯これを管理するに止まるものにして蓋し政府の事務なるものは斯くの如くにして始めて當を得たるものと稱す可きなり今文部省の職掌は教育學問に關する事務を管理するに在りとして扨實際に就て其當局者の爲る所を見るに我輩の意を得ざるもの甚だ少なからず抑も教育學問とは如何なるものを云ふや人々自營の爲めに私に修むるものあり又は國家の義務として公共の力を以て行ふものもある可しと雖も等しく是れ教育學問にして其間に名稱の差別あるを見ず左れば文部省なるものは其公私に別なく之に關する事務を管理すること猶ほ農商務省が水産鑛山等の事務に於けるが如く又逓信省が航海船舶等の事務に於けるが如くにして單に其事の大體を法律上に管理するのみにして始めて事の正を得るものなるに今日の實際には然らずして文部省は自から手を下して教育學問の事に干渉するを其本務と爲し學校を造り學者を養成し以て得意と爲すもの〓如し之を喩へば〓は農商務省が自から水産鑛山等の事業に着手し又逓信省が自から船舶を製造し航海の業を開くと同樣にして〓〓〓〓の精神を得たるものと云ふ可らず或は教育學問の事は彼の水産鑛山航海船舶等の事務と自から其性質を異にするものなれば政府自から之に干渉せざるを得ずとの説もあらんなれども是れは〓〓〓〓〓力に叶はざる最高等の學事と普通教育と〓〓る〓〓〓〓教育とに適用す可きのみにして〓〓の〓〓〓〓〓の〓〓として其都の當局者に就て自から其〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓事務を逓信省にて處理すると〓一〓のものなれども〓も教育學問とあれば如何なる種類のものにても文部省の所轄と爲し文部省の知る所の外には天下亦教育學問なきが如く振舞ふは抑も何事ぞや社會の文運未だ開けずして世に教育學問の必要を知るもの少なき時代に於ては其局に當るものが一種の方便を以て之れを奨勵保護するも或ひは可ならんと雖ども一般の社會は既に教育の必要を知り且つ銘々の私に之れを授受するの方法も備はりて經世の點より見れば寧ろ其過度の弊を患ふるの今日に當り當局者は尚ほ其方針を改めざるのみならず益々進んで益々甚しく教育學問の全權を一手に掌握して恰も専賣の利を占むるが如き觀あるは果して當を得たりと云ふ可きや今の文部省管轄の經費を算するに其大手は何れも官立學校の爲めに消費するものにして其所謂事務と云ふものも是等の學校を維持監督するが爲めに過ぎずと云ふも可なり試に現在の官立學校を全廢するか若しくは之を獨立のものと爲したらば今日の如く文部省と名くる儼然たる一省を置き之を外務内務大藏陸海軍等の諸省と對立せしむるの必要ある可きや否やと云ふに我輩は斷然其必要なきを信ずるものなり但し省の要不要を論ずるは本題の趣旨に非ざれば姑く擱き文部省が單に教育學問の事務を管理すると稱しながら其教育學問を恰も私有して學校を造り學者を養成するの任に當り自から得々たるを見れば實際には教育學問の専賣に生活するものと見做されて辨解するの辭なかる可し之を辨解するものは或は今の官立學校の教育は政府の維持なくしては到底成立す可らず下等の普通教育は勿論その以上の教育と雖も國の事情に於ては國費を割て保護するの必要あり又隨て之を監督するの必要ありとの説を爲すものあり此點は既に我輩の飽まで論辨したる處にて讀者に於ても十分に其意を解せられたることならんと信ずれば茲に屡ばすることを止め假りに一歩を讓りて或種の教育は國費を割て保護するの必要ありとするも其保護監督等の方法に就ては大に今日に異なる所なかる可らず全體今の官立學校も創立以來既に二十餘年を經過したることなれば當局者たるものが時勢の成行に注意して其間に彼日に謀を爲したらんには今頃は自から獨立維持の方法も成りしことならんに曾て其邊の工風もなく只管〓費の支出を當にして今日に至りたるは畢竟自家の怠慢に外ならざれども夫れは今更致方なしとして扨實際に愈々保護を要するとあれば其方法は自から支出入の計算を定めてそ不足の處は彼の鐵道會社又は汽船會社等が國庫の補助を仰くと同樣の手段に據らしむるか夫れも叶はずとなれば經費は矢張り何れかの筋の保護を當にするも其學校の教育は自から獨立の體を備へして文部省は唯これを管理するに止まること適當なる可し斯くの如くするときは教育學問は自から教育學問、事務の管理は自から事務の管理と其間に割然たる區別を見て自から文部省官制の趣意に叶ふことゝもなり又當局者に於ても幾分か國の教育學問を専賣するの責を免るゝに〓る可し我輩は今の教育組織の改正に關して大に所見なきに非ざれども取敢へず現在の制度内に於ても其成文の趣旨を尚ほ一層明了ならしむるの必要を見るものなり