「聯立内閣は如何」
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時事新報に掲載された「聯立内閣は如何」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
維新以來政府の當局者は強藩出身の人々多く就中薩長の兩藩人最も勢力を占めたるが故に或は之を〓て薩長聯立内閣と稱するものもあれども其實維新の元勲として政局に當りたるものは薩長又は其他に論なく何れも同功一體のものにして其利害とても又同一なれば之を聯立内閣と稱するは少しく妥當ならざるが如し盖し聯立内閣とは英語にて之をコーリシヨン カピチツトと云ひ政府内外の權衡を維持する爲め異主義の異分子を容れて内閣を組織するものなり薩と云ひ長と云ひ自ら銘々の特色ある可しと雖も今の政府を維持するの〓に於ては〓方共に其利害を同ふし又其運命を同ふするも張り功臣内閣と〓す可きものなる可し扨この功臣内閣の効能は如何と云ふに維新以來二十餘年間日本の平和安寧を維持して以て今日に至りたることなれども國勢の進歩と時代の變化は如何ともす可らず國中多數の人々は功臣内閣の政に滿足せずして次第に物論の喧しきと致し遂に國會開設の機運を見たる次第なれども元來國の政は其平和安寧を謀るに外ならずして他に目的の無きものなれば國中多數の人々が之に滿足して不平さへなければ藩閥政治なり功臣内閣なり敢て嫌ふ可きに非ず別に國會開設の要もなきことなれども其平和安寧なると然らざるとは國中多數の人の向背如何に係るものにして多數の人心これに向はざるときは如何なる美政両法も更に其〓ある可からず即ち藩閥功臣の政治が今の平和安寧に可ならざる所以にして國會開設の止む可らざる次第なり左れば功臣内閣の功能は〓に過去に属して是よりは國會多數政治の時代を覺悟す可きなれども扨又國會開設の〓〓は如何と云ふに國中多數の政治思想を代表して之を政の實際に行ふに在り直接に云へば功臣内閣に代ふるに政黨内閣を以てするに在り理勢の正に然る可き處なれども事の實際に於て其新陳代謝の機會は頗る微妙にして大に注意す可きものなり單に理勢の上より見るときは國會の開設は國中多數の年來希望したる所にして其國會も目出たく開設したる上からは直に其極意を見んと希望するも一般の〓なる可しと雖も是れは唯理勢上一通りの見解に過ぎずして實際の成行は斯る簡單のものに非ず盖し人々平常の行爲は理に由らずして〓に任ずること多きが故に理勢に於ては然る可きものも實際に於ては然らざるものなきに非ず政治の如きも亦この〓態を免れざるものにして國會〓に開けたり其れこれを開きたる趣旨は時勢の必要に應じて國の平和安寧を維持するの目的に外ならずと云ふと雖も人〓の波瀾は人の理心を攪亂して動もすれば正當の見解を妨げ岐路に彷徨せしむることあり即ち當局者の迷ふ所以にして或は〓に國會を開きながらも時としては窃に其前途を掛念して中心安からざるものもある可し人〓界の常として免れざる所なり左れば一方に於ては斯る掛念の最中なるに一方に於ては單に理勢に乗じて直に多數政治の實を見んと急ぐこともあらば其間の〓着は免る可らずして或は國内の混雜を惹起して國會開設の目的をも〓るに至る可し我輩の〓に掛念する所なり現に事の實際に徴するに政府は頻りに改革を唱へて實地に行ひたる所も少なからざれども其組織を見れば依然たる功臣内閣にして更に面目を改めず或は近時の更迭に第二流の内閣を見たりと云ふを雖も其第二流の人々とても矢張り功臣の一類に外ならずして外より之を見るときは功臣内閣の實を失はざるものと云はざるを得ず然るに民間政黨の目的とする所は政黨内閣の實行に在りて之を忘れず或は來期の國會には政府に對して信任投票を爲す可しなど其手段も頗る急激なるが如し〓方の〓〓かくの如くにして次第次第に押行くときは其間に圓滑の折合を見るは到底望む可らずして或は國會の議塲に解散の不幸を見、政黨の運動はu々陰險に〓るなど遂には〓方ともに力を以て相爭ふが如きことなしとも云ふ可らず國安の爲めに警む可き事共なり然らば則ち如何せば可ならんやと云ふに今の政府の人々が動もすれば國會の始末に杞憂するは今日の事〓に於て一應尤もの簾もなきに非ざれども功臣内閣の遂に政黨内閣に變ず可きは自然の勢にして早晩免れざる所なれば今より豫め覺悟して其變化の圓滑に〓意し又政黨の人々も目下の事〓を問はずして漫に無理の〓文を爲し却て事を〓る拙策を避け〓方共に互に一歩を讓りて專ら堪忍を心掛くるに於ては其間に圓滑の折合を見ること難きに非ず圓滑の折合とは即ち朝野聯立内閣の組織にして今の政黨中には曾て政府の局に當りて經〓に乏しからざるものあるは勿論、後進者中にも亦抜群の俊才なきに非ざれば政府の當局者は内閣更迭の機に際し從來の如く其後任を部内の第二流第三流に求むることを止め改めて外の人々と事を共にして純然たる聯立内閣を組織するの方略を取ること肝要なる可し聯立内閣なるものは固より一時〓〓の策に外ならざれども功臣内閣が政黨内閣に移る其變化の道行には此方略を取るこそ事の順序を得たるものにして今の人〓界に於て政治變遷の間に急激の變を避けて一時の混雜を免るゝは此道に由るの外ある可らず在朝在野の政治家にして果して國の平和安寧を心に忘れざるに於ては互に一歩を讓りて一日も早く聯立内閣の組織に從事す可きなり