「外人日本を知らず」
このページについて
時事新報に掲載された「外人日本を知らず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
我輩が毎度時事新報紙上に述べたる如く今日我日本國は歐米諸強國に對して常に我思ふ所を言ふ可らず我欲する所を爲す可らず是非曲直の分明なる塲合にも兎角これを曖昧の間に抹殺して我國の眞面目を現はすに由なし畢竟するに彼我の民〓風俗を殊にし宗旨世〓を殊にし文明の性質を殊にするが爲めなりとは雖も抑も又西洋人が我日本の事〓を詳にせざるの一事與りて大に力あるや疑ふ可らず盖し西洋人の多數は亞細亞洲に如何なる國々ありて之を支配するに如何なる政府あるやを知らず日本とは其中の一國なる〓又は他國の属地なる〓これを知らずこれを知ることをも勉めず凡俗〓會を去り〓〓育ある中等以上の人にても日本の文明は何の邊にまで達して其政治〓育學問技術等の有樣は如何なる〓と之を明にせんことを勉むる者は甚だ少なく彼等の交際談話の〓次たまたま日本の事に及ぶことあれば成る程斯る國名は曾て人の言に聞き新聞紙に見たることありと云ふもあり云はざるもある位のことにして之を要するに西洋國人は今日尚未だ日本あるを知らずと斷言して不可なきが如し〓に之を知らざれば其國の事に就て極めて冷淡なるも亦怪むに足らず例へば彼の有名なる絛約改正論の如き日本の於てこそ無二の重要事件なれども西洋諸國中には之に耳を傾くる者さへ少し試に彼國人に向て我に税權を返す可し治外法權を撤去す可しなど熱心蝶々することあるも先方馬耳東風にして事柄の利害得失に論なく〓として殆んど感覺なきものゝ如し左ればとて其無感覺を憤りて之を咎むるも事に〓なくして唯徒に我愚を世間に公にするは足る可きのみ英國倫敦に在る〓友某氏より此頃達したる手書中に左の一〓あり以て歐米人が我日本の事に付き利害を感ずること薄きの一證と爲すに足る可し
小生の知人に某と云へる英人あり十六箇年の間日本に在留して文筆もあり繪畫も覺え居〓へば平生デイリイグラツヒクに日本の名所古跡風俗人〓の〓〓〓〓〓〓〓記載致し一二時間の勞〓に二、三ギニイ（十三〓〓より二十内外）の謝禮を得ることなり〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓を理解して〓〓デイリイグラツヒク〓よりは其〓之を〓〓したれば氏は其圖解の説明中大津と云へる文字の下に附註して此處にて露國皇太子撃たれたりとの數字を加へて再び寄〓せしに今度は直に五ギニイと相成り翌日の紙上に鮮明なる松の繪を〓げ〓ふと聊かにても外國との關係あるにあらざれば所詮歐米人の日本に注意致候事は六かしき事と存候云々
狭き日本に蟄伏すればこそ唐崎の〓とし聞けば誰も知らざる者なきが如く思ふなれども外國の人民までが同じ樣に日本の名木を評判するならん杯と考ふるは大なる過なりグラフヒク〓者が始め單に唐崎の松と題したる〓を退け其後同じ〓に露國皇太子云々の數文字を附したるが爲めに直に之を紙上に〓載することを承諾したるはよく其講讀者たる歐米人の心〓を料りたる者にて新聞事業に〓目なき處置と謂ふ可し抑も今日の如く外人が日本の事に不案内なる間は日本人が如何に力を盡して國權を擴張せんと欲するも到底徒勞に属せざるを得ず徃年西洋人の始て我國に來て交際を求めたる際には日本人は未だ外國の事〓を知らず、之を知らざるが故に一筋に西洋人を嫌悪し彼我強〓の如何をも辨ぜず大膽にも兵力を以て之を國外に追拂はんと迄なしたることあり當時日本の資力又武備の有樣を以て西洋諸國に比すれば其不均合いなること恰も大八車を以て汽車と競走せんとするに異ならず攘夷家の無謀も亦甚だしと云ふ可し然るに今や攘夷の沙汰も止むと同時に我文物武備の進歩は世界中未曾有の新事例とも稱す可き程のものなれども唯如何せん外國人にして我國の眞面目を〓る者少なきと又一方には我國人が攘夷の暴手段を止めながらも昔夢未だ全く醒めずして國を開くの果斷に乏しく動もすれば退守自衛の〓論を再演せんとする者あると此二樣の事〓は我國の前途に横はる所の憂なり左なきだに己の知らざる者を輕んずるは人〓の常なるに故さらに自ら退て人の知らざる處に愚痴を鳴らすとは俗に云ふ蔭辨慶にして他の〓侮を免がれんにとするも得べからず外交の方便は〓々實々にして我れに一尺の物あれば之を一尺五寸にも示すこそ其秘訣にして又國民の至〓なる可きに今の日本は之に反して實際一尺の物を五寸に評せらるゝことさへなきに非ず立國の不利これより大なるはなし左れば今日の要は我國〓を外國人の目前に披露して世界中に日本國の名聲を賣るの一事に在り其手段樣々なる中にも國中に外國の語學を勸むる事、外國人を國内に誘引する事、航海を盛にする事、海外の旅行移住を奬勵する事等は手段中の有力なるものなる可し其細論は之を他日に讓る