「社會の原動力」
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時事新報に掲載された「社會の原動力」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
日本は山水秀麗、風土優美にして眞に蓬莱〓洲の名に背かず又〓會の上流い宗教の勢力薄くして特に〓年は士人言行の制裁も甚だ嚴ならざるが故に西洋人の來り遊ぶ者の如きは或は別天地と呼び或は樂園の名を呈して故〓の俗塵を一掃したるを稱せざるはな遽に其言を聞けば恰も我日本の爲めに誇る可きが如くなれども更に沈思して内實を〓察するときは却て大に然らざるを發明す可し盖し彼の諸國に於ては宗教の勢力もあり〓會の制裁も亦嚴にして士人の一擧一動任意なる能はず常に束縛に苦むことなれば日本に來りて我國人の何事にも淡泊無頓着なるを見聞し漫遊の旅、心の欲する儘を行ふて防げなきは實に外人の樂土として滿足する所ならん責任なき旅客の爲めには好都合なる可しと雖も主人たる我國人の身を以て之を省れば偶々我人心の不取締にして國俗の堅固ならざるを證するに足る可きのみ樂土決して樂土に非ざるなり元來國風の盛衰は〓會の事〓と〓ね相伴ふものにして譬へば日月天に輝いて草木影を生ずるが如く政事軍事等の表面に繁忙を極むるときは人心爲めに奪はれて復た裏面風俗の邊を顧みざるに至ること古今の史乗に徴して明白なれば近來我國の人心風俗の堅固ならざるも自から種々の原因あるべしと雖も其これをして美ならしめ又醜ならしむるは重に〓會に原動力ありて一々範例を示すに由るもの多きが如し之を聞く軍隊に〓校團なるものあり此團體の行儀こそ實に三軍の〓〓を支〓することなれば國に忠に軍に勇に方〓〓廉を守らざる可らざるや勿論にして居常相切磋するを軍の定則となすといふ我輩の所謂〓會の原動力とは〓ほ軍隊の〓校團の如きものにして昔は士族の武士道を勵む者ありて恰も原動力の地位に立ちたりしが今や時勢と共に其趣を變じて文明男子の一類は正に之に代ることゝなり將來も亦此任を辭すること能はざる者ならん輕からざる責任を帶る者と云ふ可し而して此輩の實際に行ふ所を見れば地位の輕重に論なく品行を脩めずして身分不相應の奢〓を事とし放埓濫行殆んど見るに〓びざる者多し凡そ士人の世に在るや衣食を全ふして妻子を養ひ以て我事畢れりと云ふ可らず更に〓會の文明を補uするの義務を免れざるものなれば時としては慾を制して堪へ難きに堪ふるも亦止むを得ざる次第なるに彼の文明男子は其コ行の以て〓會に標準たる可きものなきのみならず日常の美衣美食も唯一時の外觀を装ふのみにして内實に其美を致すの資力さへある者少なし不コ無經濟、曾て無形の文明に補uする所なくして却て風俗を害しながら其身の地位は則ち〓會に淺からざる原動力を及ぼす者なりと云ふ、我輩は世〓風俗の〓より觀察を下し此種の男子を評して單に無用の長物と爲すに止まらず有力有害の不良物と認めざるを得ず或は當人の私〓に於ては己れ一人を例外とすれば敢て差支なかるべしとて強ひて自から説を作ることもあらんなれども如何せん其身は〓會原動力の地位に居て一身の不良は忽ち他の手本となり甲乙丙丁相應じて〓々風を成すの害毒は輕々に看過す可らず頃日來本紙上に〓儉の事を論じて專ら其人々の私の利害に訴へたるは世上の流弊に狂して一身を〓るの氣の毒なる上に併せて〓會を害するを憂ふるも先づ其私に就て談ずるの適切ならんことを知るが故なり身分不相應の奢〓は啻に金錢上の不都合に止まらず〓惰、臆病、腐敗、詐僞等もろもろの悪コを醸し出すの泉源と爲り〓會の生存に最も忌むべき弊風を來たす媒にして特に今日の日本國は〓に世界の大勢に後れて是れより〓興日進せざる可らざるの急機に當るものなるに斯る悪コを誘致して國家生存の前途を如何す可きや國俗の盛衰消長は關する所頗る大なり勤勉、敢爲、着の要務なるべし即ち文明男子をして悪コの原動力たらしめずして善コの原動力たらしめざる可らざることなれば天下有志の人は鼓を鳴して之を攻め原動力の原動力と爲りて彼輩の改心を促し以て〓會の急を救はんこと我輩の切望する所なり