「海軍大演習の施行/露國海軍の大演習」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「海軍大演習の施行/露國海軍の大演習」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

海軍大演習の施行

從來我國にては屡ば陸軍大演習の催ほしあり昨年の如きは陸海聯合の大演習を施行したれども海軍獨立の大演習とては未だ一回も行ひたることなし聞く所に據れば昨年の聯合演習には海軍は唯僅に運兵上陸の任を務めたるのみして海軍の演習としては別に大に伎倆を試むるの機會を得ざりしと云ふ海陸軍は共に國防上の兩翼とも云ふ可きものにして其練磨經驗を要するの一段に於ては彼れ是れの別ある可らざる筈なるに一方は屡ば演習を試みて成蹟の見る可きものあるに拘はらず一方は全く之を行はずとありては局外者に於ても遺憾の情なき能はざるなり抑も演習の軍事上に必要なるは今更云ふに及ばず當局の軍人の爲めにuする所あるは勿論の事にして尚ほ其他に演習の一擧以て國の内外に進歩の實を表して間接に利する所も亦決して少小ならざる可し我輩は曾て我軍艦が海外のゥ國を巡航して遠洋の航海を練習する旁に我國海軍の進歩を彼國人の眼前に示すの急なることを論じたりしが大演習の如きも一たび之を施行すれば忽ち内外の耳目を引て一般の評判と爲り居ながらにして二重の目的を達するに足るものなれば實に一擧兩得の策なりと云はざるを得ず或は海軍の演習は少なからざる費用を要するものにして容易ならずとの事情もあらんかなれども既に軍備の設ある以上は之を實地に經驗するの方法なかる可らず是等の費用は豫め規定しある可き筈にして陸軍には演習の費用あれども海軍には之なしとの理由はある可らず或は若しも海軍演習の費用は莫大にして今の經費にて足らずとならば更に臨時の請求を爲すも可なり左れば費用の點は兔も角もとして我輩は一日も早く海軍大演習を施行し當局の軍人をして實際に練磨經驗を積ましむると同時に其進歩の實相を内外國人の眼前に表示せんことを希望するものなり

露國海軍の大演習

海軍演習の目的とする所は一にして足らざれども其重なるものは出師準備海岸攻防の戰略戰術等にして是等の科目は大演習に非ざれば正確に試ること能はざるものなり左れば英佛の如き海軍國にては八九年前より毎年大演習を施行するの例を成し時々の經驗に於て海軍の進歩にuする所甚だ少なからずと云ふ又露國の如きも近年來屡ば之を行ふ事となりたるよしなるが今秋施行す可き大演習の方略を得たれば參考の爲め左に其一班を記載す可し

今回バルチツク海に於て施行する露國海軍大演習の計畫は敵國の艦隊がフインランド灣 を封鎖したるの假定に基つけるものなり即ち敵艦は既にバルチツク海上を占領して其主 力をムーン サンドに集めたる後、一面にはクロンスタツトよりフインランド灣の一帶 を封鎖し一面には海岸通航の船舶を捕獲して傍近ゥ港の通商を妨害せんとする二樣の運 動を爲しつゝあるものと假定して扨露國の艦隊は右の有樣なるを以て止むを得ずスヰー ボルグよりビヨールコーサンドに至るフインランド沿海の重なるゥ港を守り更にヘルシ ングホールスより突出してムーン サンドなる敵艦の本據と其艦隊との間の聯絡を絶ん とするに擬したるものにて同國の軍艦は此方略に從ひフインランド群嶋とグロカー及び ピヨールコー サンドとの間なるゥ嶋に配置せらるゝ筈なり云々