「再び鐵道案に就て」
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時事新報に掲載された「再び鐵道案に就て」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
我輩が前號の紙上に述べたる如く目下我國の鐵道問題を論ずるに當り着目す可き二個の要
點は線路擴張と鐵道整理とにして兩々相關係して終に離る可らざるものなり今回政府及び
議員の雙方より提出したる鐵道法案を併せ見るに其細目には多少の異同なきに非ざれども
大體の精~を推究すれば雙方共に其歸を同ふして少しく取捨折衷を加ふるときは前條二個
の要點に於ても全く相一致するの望なきに非ず或は強いて相違の點を求むれば政府の案は
鐵道整理の方に重く議員の案は線路擴張の方に精しきが如くなれども其一方に重しと云〓
〓精しと云ふも唯その立言の體を異にするに過ぎず〓决して他の一方を輕略に付したるに
非ず如何とな〓〓〓〓と〓〓と兩々相關係して苟も分つ可らざるは〓〓〓の〓〓にして雙
方の案に於ても共に其必要を認〓〓〓〓〓り左れば〓〓を議するに當り雙方共に互に〓〓
〓〓〓〓〓〓〓〓するときは完全の結果に〓すること决して難きに非ざれども茲に聊か掛
念す可きは人生の名譽心にして假令ひ同一の事にても他人の發意に出てたるものとあれば
兎角これを妨げて我れ一人の名譽を全ふせんとするは普通の人情に免れ難き所なれば或は
今回の問題に就ても政府は只管原案の通過を希望する其反對に議員に於ては其提出案の成
立に熱心するの意味もなきに非ざる可しと雖も鐵道は國家の事業にして百年の利害に關す
るものなれば其問題を决するには雙方共に大に注意する所なかる可らず若しも然らずして
名譽心の爲めに互に相容れずして互に相排するが如き事もあらば唯に事にuする所なきの
みならず雙方共に其目的を達すること能はずして詰る所は國家全體の不利を見るの外ある
可らず斯くては政府も議員も共に國民の希望に背くものにして我輩の取らざる所なり左れ
ば今日の策は雙方共に名譽心を脱し只その目的を達するを以て專一と爲し雙方提出の兩案
を併せて之を議會委員の手に付し其委員は政府委員と會して十分に熟議を遂げ細目に於て
は互に一歩を讓りて大體の精~を一致せしめ之を議塲に提出すること猶ほ前期の豫算の始
末と同樣にして穩に議决するの方法に由る可し斯くの如くなれば其修正したるものは政府
の案にも非ず又議員の案にも非ず雙方合同の間に成りたるものにして喩へば猶ほ銅と亞鉛
とを合して眞鍮を生ずるが如し之を分析すれば銅と亞鉛に外ならざれども既に眞鍮なる一
種の金屬たる上は其成分の如きは論ぜずして可なり今雙方の合同に依りて成立したる鐵道
案は眞鍮に異ならず其成分を尋れば政府案もあり議員案もあれども現はれ出てたるものは
則ち一種の新成物にして雙方の孰れにも非ず即ち日本國の鐵道案にして始めて國家事業の
眞を見る可きなり思ふに鐵道の整理は過日來述べたる如く目下の急に迫りて買収なり保證
なり方法は何れにしても其始末は一日も猶豫す可きに非ず又その擴張の如きも僅に一時の
不景氣に妨げられて百年の大計を誤る可きに非ず孰れも國家緊急の問題にして之を議决せ
ずして終るか又は繼續委員などに付して議决を延引するが如きこともあらば一般の商賣社
會をして救ふ可らざるの慘状に陷らしめたる其上に全國の交通は恰も半身不隨意の難症を
呈するの外あらざれば我輩は前陳の方法に由りて速に議决せんことを政府議員雙方の人々
に勸告する者なり