「民黨に反對する者必ずしも政府の味方に非ず」
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本文
民黨に反對する者必ずしも政府の味方に非ず
議員撰擧の期日も次第に差迫りて最早僅かに數實を餘すのみとなりたれば全國各地に於け
る候補者の運動は日に益々忙しく各々畢生の力を盡して相爭ふ其模樣は日々の諸新聞紙を
見ても之を知る可し元來此度び議員撰擧の必要を見るに至りたる所以は昨年の議會に於て
政府と彼の所謂民黨との間に大衝突を生じたるが爲めにして次回の議會には是非とも多數
を占めんとて政府と民黨と相敵して成敗を爭ふものなれば恰も官民の爭とも云ふ可き有樣
にして隨て世上一般に官黨民黨の聲を高くし苟も政治社會に奔走する人を見れば其人は必
ず此兩黨の一に屬することゝ想像して疑はざる者多きが如し例へば爰に民黨を攻撃する論
者あれば民黨の人々は直に之を目して吏黨と云ひ御味方と云ひ恰も其論者は政府を助けん
が爲めに己を攻撃するものなりと認めて之を惡むこと甚だしく又政府に於ても我反對者に
反對するものは即ち我に味方する者なり、民黨の敵は即ち官黨の友なりと信して得意なる
が如くなれども畢竟するに政府の人も民黨の人も自家相互の爭に心を奪はれて世間に民黨
にも同意せず政府にも左袒せざる獨立不偏の論者あることを忘れたるものと謂はざるを得
ず盖し昨年の議會が國民の利害をも顧みずして漫に政府に反對し人情に悖り常識に外れた
る奇を呈して施政を妨げんとしたるは誠に言語に絶したる不始末にして思慮ある者は誰し
も之を非難せざるはなし今日民黨が社會上流の一部分に人望を失ふに至りたるも全く之が
爲に外ならずと雖も左ればとて今の民黨に反對する者は徹頭徹尾政府の味方なりとして安
心す可らざるのみか其中には却て大に政府に向て不平を懷く人も尠なからざる可し我輩の
毎度云ふ如く今の政府は情實の爲めに束縛せられて政略の運動自由ならず其運動不自由な
れば隨て官途に冗員多く會計に冗費多くして既に不利なるのみならず其冗員冗費は遇ま以
て繁文の弊を釀すの媒介となりて人民に厭はるゝ尚ほ其上にも官吏は一般に專制時代の舊
體を脱すること能はずして漫に自から尊大を裝ひ曾て人民に向て愛嬌を賣ることを知らず
人民の身と爲りて之を見れば尊大は厭ふ可し繁文は煩しきに堪へず唯政府に遠ざかるのみ
にして之を愛し之を慕ふものとては甚だ稀なるが如し故に天下有識の士は此事態を見て安
んずるを得ず單に當局者の身の爲めに忠告するに非ずして國家の不幸として飽くまでも其
改良を促さんとするの决心なれば其之を促すば所謂民黨の攻撃論などに比すれば趣を殊に
すと雖も自から政府に反對するものと謂はざるを得ず左れば政府が此立憲政體の間に居な
がら尚ほ改良の果敢に乏しく荏苒今日の儘にて押し行かんとするときは幾年を經過するも
唯徒に反對者の數を增すのみにして味方の殖る望はある可からず今日遇ま政黨以外の獨立
論者が民黨に反對するを見て是れは必ず我を助くる者ならんと早合點に會得して濟々たる
多士は民黨の敵なり政府は政友に乏しからずなど安心の餘りに自家の整理を忘れ後日に至
りて却て其政友より思掛けなき攻撃を蒙りて悔ることなからん樣我輩は政府の人々に向て
今より注意を促すものなり