「 新政黨の風説 」
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時事新報に掲載された「 新政黨の風説 」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
新政黨の風説
近頃世間の風説を聞くに政府は新議會に對する政略の第一着歩として議會中の無所屬議員及び民間の有力者を糾合して新政黨を組織するの計畫ありと云ふ今日の政治社會に超然主義など唱へて政治の外に逍遙せんとするが如きは時勢の許さゞる所なれば政府の人々も目下の必要に迫られて政黨組織の計に出でたるものならんには我輩の賛成する所にして一日も早く其發表を見んと欲するものなれども實際の趣向は如何なる可きや愈々我輩の希望の如く今の内閣員が自から主義を發表し全員擧て其事に盡力するの覺悟なるや又は當局者は依然超然の主義に安んじながら政府に縁故ある老輩の政治家が政府外に政黨を組織し内外相應して互に聲援するの計畫なるや若しも政府外の新政黨とありては其成行に付き或は掛念の筋なきを得ず表面より見れば政府は依然政治外に超然の姿を爲して相變らず有爲無爲の間に逍遙し實際政治上の運動駈引は隱然たる新政黨にて引受るとあれば從來揚言の主義にも撞着せずして一通りの體裁、繕ひ得て妙なるが如くなれども我輩の想像にては何分にも之に安んずるを得ず今その想像の次第を陳べんに新政黨が果して社會に勢力を得て議會に多數を占るときは他の民黨を壓倒すると同時に政府をも左右すること難きに非ざれば必ずしも政黨として外に在るを要せず直に政府を取て之に代る可し髓分愉快なることなれども新政黨を組織するに當りて差向き之に應ずる者は如何なる種族にてある可きや之を思はざる可らず徹頭徹尾現政府に反對せんとする過激主義なれば既に自由改進の兩政黨あるが故に必ずしも新政黨を待たずして運動自在なる可し左れば新黨の本意も基より政府に反對するにあらざれば今の所謂無所屬又は政府黨の人々を糾合せんとするか自然の勢なるが如くなれども其人々は無限の利害情實よりして現政府に左袒し唯政府と名くる其名義を目的にして之に集まるものなれば其政府の外に政黨の起るを見ても容易に之に走ることはなかる可し如何となれば假りに新政黨を以て政府の代表者とするも政客の身と爲りて考れば間接に代表者に從ふよりも直接に其本家なる政府を助るこそ利益なる可ければなり故に新黨の首領たる可き老輩の爲めに謀れば最初より現政府に心を寄せずして公然たる獨立の團體を作り自由自在に言論を逞ふする其間に彼の自由黨改進黨に向ては云々の主義を殊にするとて正反對に立ち又政府に向ても其施政の不都合を鳴らして之を攻撃し左右に政敵を引受けて一種の新主義を唱へたらば或は之に應する者もある可しと雖も若しも然らずして本來の目的とする所唯現政府を助けんとするの一方に在ることならば其首領は先づ政府に入り暫時にても政權を握る其間に政黨を組織し其黨勢を利用して全權の地位を固くするの工風もある可し何分にも政府外に政黨を作り之を政府の政友として其聲援を利用せんとの策は言ふ可くして行ふ可らず政黨の勢力盛なれば政府は有れども無きに等しく其勢力微弱なれば之を頼むに足らず况んや政海の變化極りなくして今日の政友も明日の敵たるを計る可らざるに於てをや我輩の想像に於ては安んずるを得ざるなり然りと雖も是式の想像は當局の本人に於ても既に巳に畫きたることならん之を想像し之を思案し果して新政黨の利益を發明して方寸の决する所、復た動かす可らざることならん政治の事情に不案内なる我輩の敢て喙を容る可きにあらざれども婆心自から禁する能はずして試に一言を呈するのみ
18920306 新政黨の風説 高橋慶子 1410字
近頃世間の風説を聞くに政府は新議會に對する政略の第一着歩として議會中の無所屬議員及び民間の有力者を糾合して新政黨を組織するの計畫ありと云ふ今日の政治社會に超然主義など唱へて政治の外に逍遙せんとするが如きは時勢の許さゞる所なれば政府の人々も目下の必要に迫られて政黨組織の計に出でたるものならんには我輩の賛成する所にして一日も早く其發表を見んと欲するものなれども實際の趣向は如何なる可きや愈々我輩の希望の如く今の内閣員が自から主義を發表し全員擧て其事に盡力するの覺悟なるや又は當局者は依然超然の主義に安んじながら政府に縁故ある老輩の政治家が政府外に政黨を組織し内外相應して互に聲援するの計畫なるや若しも政府外の新政黨とありては其成行に付き或は掛念の筋なきを得ず表面より見れば政府は依然政治外に超然の姿を爲して相變らず有爲無爲の間に逍遙し實際政治上の運動駈引は隱然たる新政黨にて引受るとあれば從來揚言の主義にも撞着せずして一通りの體裁、繕ひ得て妙なるが如くなれども我輩の想像にては何分にも之に安んずるを得ず今その想像の次第を陳べんに新政黨が果して社會に勢力を得て議會に多數を占るときは他の民黨を壓倒すると同時に政府をも左右すること難きに非ざれば必ずしも政黨として外に在るを要せず直に政府を取て之に代る可し髓分愉快なることなれども新政黨を組織するに當りて差向き之に應ずる者は如何なる種族にてある可きや之を思はざる可らず徹頭徹尾現政府に反對せんとする過激主義なれば既に自由改進の兩政黨あるが故に必ずしも新政黨を待たずして運動自在なる可し左れば新黨の本意も基より政府に反對するにあらざれば今の所謂無所屬又は政府黨の人々を糾合せんとするか自然の勢なるが如くなれども其人々は無限の利害情實よりして現政府に左袒し唯政府と名くる其名義を目的にして之に集まるものなれば其政府の外に政黨の起るを見ても容易に之に走ることはなかる可し如何となれば假りに新政黨を以て政府の代表者とするも政客の身と爲りて考れば間接に代表者に從ふよりも直接に其本家なる政府を助るこそ利益なる可ければなり故に新黨の首領たる可き老輩の爲めに謀れば最初より現政府に心を寄せずして公然たる獨立の團體を作り自由自在に言論を逞ふする其間に彼の自由黨改進黨に向ては云々の主義を殊にするとて正反對に立ち又政府に向ても其施政の不都合を鳴らして之を攻撃し左右に政敵を引受けて一種の新主義を唱へたらば或は之に應する者もある可しと雖も若しも然らずして本來の目的とする所唯現政府を助けんとするの一方に在ることならば其首領は先づ政府に入り暫時にても政權を握る其間に政黨を組織し其黨勢を利用して全權の地位を固くするの工風もある可し何分にも政府外に政黨を作り之を政府の政友として其聲援を利用せんとの策は言ふ可くして行ふ可らず政黨の勢力盛なれば政府は有れども無きに等しく其勢力微弱なれば之を頼むに足らず况んや政海の變化極りなくして今日の政友も明日の敵たるを計る可らざるに於てをや我輩の想像に於ては安んずるを得ざるなり然りと雖も是式の想像は當局の本人に於ても既に巳に畫きたることならん之を想像し之を思案し果して新政黨の利益を發明して方寸の决する所、復た動かす可らざることならん政治の事情に不案内なる我輩の敢て喙を容る可きにあらざれども婆心自から禁する能はずして試に一言を呈するのみ