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last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

18920319 皇族の財産 高橋慶子 1224字

我輩は前號の紙上に皇族の教育に就て鄙見を陳じたり今又その緒を續ぎ皇族の財産に就て一言せんに抑も日本國民の情に於ては普天の下王土に非ざるなく卒土の濱王臣に非ざるなしの旨に背かず全國四千萬の臣民一人として帝室に對し奉り忠誠ならざるものなければ帝室の御財産の如きは別に世襲として備へらるゝの必要なく臨時御入用の節には其都度仰出さるゝも可なりとの次第は我輩の兼て述べたる所にして帝室の御財産に就ては別に議論もなけれども一般の皇族に至りては自から帝室と異にして特別に世襲財産の必要を認むるものなり抑も皇族は帝室の御親族にして實は御一家とも申す可きものなれば其御家計の如きも常に帝室より賂はせられて差支なきが如くなれども斯くては今後帝室の御費用も自然に嵩むのみならず皇族の體面を保たるゝにも如何ある可きやの掛念なきに非ず西洋諸國の例を見るに各國の皇族は何れも儼然たる生活を爲して平生日常の交際に派出を盡すは申す迄もなく他國の皇族等來遊の節は費用を吝まずして之を欵待し或は自身にも時々他國に漫遊して相當の交際を爲し又は慈善義捐等の催しには公衆に先んじて多額の金物を投ずるなど自から社會の上流に位して一種特別の色あるものゝ如し皇族の生活は敢て華美を要するには非ざれども帝室の連枝として内外に向て其地位を保つには平生の生活も自から豐なるものなきを得ず即ち彼國々の皇族は何れも世襲の財産を有して獨立の生活を爲す所以なり我皇族方の御家計は前述の如く一切帝室より賂はるゝことにして實際に御不自由なきは勿論なれども今後外國との徃來も頻繁と爲りて屢ば彼の皇族等の來朝もあるに至れば其間の御交際は勿論御修業又は御漫遊の爲めには此方よりも彼地に赴かるゝこともある可く其他内國に於ける平生の御生活に就ても世の進歩に隨て多少その趣を變ぜらるゝことも必要なれば今後は次第に御家計の豐なるを要するの事情なきを得ず然るに今日の如く悉皆これを帝室に仰かるゝとありては如何ある可きや直接に帝室の御用なれば隨時増額あるも差支なき所なれども皇族方の御家計の爲めにとありては増額の沙汰も中々容易ならざる可し且又其邊は兎も角もとしても今日の儘にて依然帝室費の中より支出さるゝときは實際は御手許より出づるとしても其出納の間には之を管理するの當局者なきを得ずして或は其邊の意見次第にては平生の御生活に獨立の實なく内外に對して皇族の體面を保たるゝに如何あらんとの掛念もなきに非ず何れの點よりするも其御家計は全く帝室と分離して獨立の經濟を立てらるゝの便利なるを見る可し既に華族の輩には何れも世襲財産ありて其筋より之を保護管理し殊に新華族の如きは授爵の際に特別の恩典ありて世襲の財産を賜りたる程の次第なれば我皇族にも一時帝室費中より支出さるゝなり又は御財産の中より分賜さるゝなりして世襲財産を備へられ獨立の御生活を得せしめらるゝこそ今後の長計なる可しと我輩の竊に信ずる所なり