「撰擧干渉の建議(貴族院)」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「撰擧干渉の建議(貴族院)」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

撰擧干渉の建議(貴族院)

貴族院にては〓日撰擧干渉に關する建議案を議決して之を政府に提出したる其翌日衆議院にても同事件に關する上奏案の議事あり其案は否決されたれども尋で再び同事件の緊急問題を議〓したり人或は此事實を見て貴院の議員は衆院の民黨と相結んで政府を苦しましめんとするものなりなど邪推するものなきに非ず我輩は〓生より貴院の獨立不偏を信ずるものにして例えば監獄費國庫支出案を可〓したるが如き又地價修正地租輕〓の案に對して反對の意見を抱くが如き何れも基本色を認む可きものとして毫も之を疑わざれども其建議を以て政府に〓意したる趣旨に就ては聊か一言なきを得ざるなり抑も議員の撰擧は本來多數の撰擧人が智德名望〓備して十分の信用ある人物を撰び之に議政の權を托することなれば其撰まるゝ本人に於ては必ずしも自から〓み出るを要せず〓して他の卑劣手段を用いるに至りては之を目して弊害と認めざるを得ず或は是種の手段は西洋諸國に於ても毎度行わるゝ所なりとて怪しまざるものもあれども弊害は即ち弊害にして許す可からざるのみか我國の現〓に於ては其弊害の行わるゝこと寧ろ彼國よりも甚だしきものあるが如し試に我議院の撰擧に就き能く此種の弊害を〓けて當撰したるものありやと云へば我輩は三百員中その人多からずと答えざるを得ず如何となれば撰擧本來の性質に於ては一錢金をも要せざる筈なるに實際は則ち然らず所謂〓動費の多きは幾千圓若しくは幾萬圓、少なきも數百圓を費さざるものはなしと云う即ち其金錢は如何に辨解するも用法の美にして公然たるものと明言す可からざればなり我國の撰擧法には現に是等の非行を禁ずる明文あるにも拘わらず實際に斯る擧動して靑天白日に憚らざるものある以上は其官たり民たるを問わず撰擧〓會一般の風俗を矯正せんとて政府に忠告するは貴院の本分を盡すものにして我輩に於ても賛成する所なれども全面の流弊を〓て之を一方の罪に歸し獨り政府の干渉を云々するは獨立不偏なる貴院の發議として聊か〓憾なきに非ず抑も〓般の撰擧に全國到る處、種々の醜態を呈し或は投票を賣買し或は暴力を逞くして流血の〓〓を見たるが如き事實に相〓なしと雖も畢竟天下一般の流弊にして其罪の歸する所を詮索するときは一般に免がるゝを得ざる所のものなり盖し所謂民黨と稱する一派に属するものは費用も不充分にして隨て〓動も緩漫なりしに反し吏黨と唱える一派には金力乏しからずして手も能く行届き或る地方にては非常の〓動したることさえありし由なれば恰も他を壓服したるが如くなれども大體上より大に論ずるときは金の多少、〓動の緩〓は以て撰擧法の正不正を判斷するに足らず錢を費やすこと少なしと雖も其用法にして正しからざるときは賄賂は矢張り賄賂に外ならず人を役する多からずと雖も〓に腕力を用いるときは暴行は即ち暴行にして其多寡輕重の爲めに罪を恕す可きに非ず左れば國中最高の貴院が事の大體に着眼して政府をも見ず又人民をも見ず唯全國撰擧に關する一般の弊害を正す目的を以て政府の〓意を求むるとなれば自から高尚公〓の體裁を得て絛理の見る可きものありと雖も單に政府の干渉云々を論ずるが如きは其見る所聊か窮屈なりと云わざるを得ず〓憾なるが如し思うに貴院が政府と衆院との間に立て〓生獨立の地位を保たざる可からざるは衆院の衆論、時に熱して政府と衝突の患あるに當り之を緩和調停する必要あればなり今や政府と衆院とは〓に衝突の端を現わして其成行圖る可からざるものあり即ち貴院の獨立は益々必要を感ずる塲合なるが故に事、〓〓に属すと雖も聊か一言して今後の〓意を〓るものなり