「海軍省所管」

last updated: 2021-08-22

このページについて

時事新報に掲載された「海軍省所管」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

の軍艦製造費六萬九千四百圓の支出は五月二十九日衆院に否决せられたり竊に案するに此費目は海軍省にて漸次に新艦を製造して恰も現在の軍艦に相續せしむるの計畫に供するものなりと云ふ然るに今その支出を拒むときは現在の軍艦は年年歳歳老朽し去り新艦の來て之に代はるものなくして日本の海軍は自然に艦力を縮小せざるを得ず軍事上に容易ならざる次第なり尋常一樣の日用品なれば錢を投して即時に買ふ可きなれども世界中に出來合の軍艦を賣る者なし他年一日何か事に當りて現艦の老朽に驚き之を補充せんとして方便を得ず唯徒に狼狽するなきを期す可らず思ふに今の民黨の人人は現政府に信を置かず斯る政府の事を托しても到底無益なり何れ民黨が政府の地位を得たる上にて徐徐に計を爲す可しとの政算ならん自から一説にして妙なれども扨その地位を得るは果して何れの日なる可きや世人の之を知らざるのみか民黨自身に於ても明言するを得ず詰り空想の日月なるに軍艦の製造は今日限りに廢止したり之を喩へば早晩他人の家を乘取らんとの胸算を定め其建物を其ままにして破損するも築造の計畫を許さざるが如し假令ひ上首尾にて之を乘取り得るも移轉の上、當惑することある可し家屋の漏るは忍ぶ可しと雖も軍艦の腐朽は忍ぶ可らず我輩は民黨の政略に感服せざるをものなり