「副嶋内務大臣の辭職」
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時事新報に掲載された「副嶋内務大臣の辭職」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
副嶋内務大臣の辭職
去る三月中内務大臣に更迭あり品川子辭して副嶋伯これに代りたる其當時に於て時事新報
は左の言を述べたり
(前略)聞く所に據れば伯は古代の豪傑流にして剛毅勇斷、事に頓着せず其言行時に奇を
呈し奇極りて往往人の意表に出るの擧動なきに非ずと云ふ今の内務の政局は頗る周密の智
慮を要し剛毅勇斷のみを以て能と爲す可らずと雖も伯も既に老して六十餘年の經歴を加へ
たれば老後の練達自から變通の妙を見るやも知る可らず云々
爾來新内務大臣の擧動を見るに果して奇を極めて往々人の意表に出るもの少なからず專制
時代の政略なれば兎も角も立憲政治の今日に斯る擧動は如何なるものなる可きやと餘所な
がら竊に掛念に堪へざりしに遂に部内の衝突を生じて辭職の沙汰を見るに及べり目下國會
議塲の雲行も頗る穩ならずして政府と議會とは恰も對陣の最中に當局大臣の辭職とは事體
の當を得たるものに非ずと雖も其事情にして果して昨今世間に傳ふるが如くなりとすれば
政府に於ても強いて之を留むるの理由なきが故に此處は斷然處置して當人の意に任ずるの
外ある可らず我輩は唯明治政府の失體として之を惜しむものなり然りと雖も今回の事の如
き决して偶然に非ず又當局者一人の責のみに非ず從來政府の人々は内の情實の爲めに殆ん
ど政權維持の必要を忘れたるものゝ如く毎度の更迭沙汰に其後任者を擧ぐるには唯情實の
釣合を善くするの一方にのみ專らにして其他を顧みるの暇なきが故に一時の都合の爲め
往々後日の不始末を致すことなきに非ず今回の出來事の如きも亦その一例として見る可き
ものなれども今日は政權維持の必要を感ずること愈々切にして最早や區々たる情實を談ず
るの塲合に非ざれば今後の始末に就ては能く政府全體の利害を考へて處置すること肝要な
る可し