「超然主義の試驗」
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時事新報に掲載された「超然主義の試驗」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
超然主義の試驗
現内閣の對議會策は果して如何、前内閣は硬軟の間に彷徨して曾て一定の方針を見ず其間に終を告げたれども所謂硬と云い軟と云うも只その手心に聊かの相〓あるまでにして政權維持即ち政府の地位を守る一點に於ては毫も讓る所ものあるに非ず即ち許す限りは直接間接に政府の權力を盡して無理にも多數を制せんか或は成る可く事を内端にして議會の歡心を失わざることに〓意せんか別あるのみにして本來一定の主義あるに非ざれば其〓の定まらずして動もすれば動揺を免れざりしも當然と云わざるを得ず抑も議會開設の今日に於て政府の地位を守らんとするには兎にも角にも議塲に多數を制すること必要にして其手段は如何にしても敢て咎む可きに非ざれども若しも〓生より一定の主義なくして唯一時の多數をさえ制すれば可なりと云う如き覺悟にては其多數も永く頼む可からざるのみならず恐くは之を得ることも難かる可し故に我輩の所見を以てすれば愈々議會の多數を得て事を行わんとの覺悟ならば政治上に許す限りのあらゆる手段を盡して之を得ることに務め果して多數を制したる曉には一切萬事大膽に施行して毫も顧みることなき其代りに若しも政府の處置、民望に反して議會の反對を受くる塲合にも潔よく身を〓け其地位を讓渡して所謂責任内閣の實を行うか、又は政府の地位は其人のあらん限り如何なる事〓に〓うも〓して他人に渡さずとの〓心ならんには最初より議會の向背如何に頓着せず議會の〓は自から議會の〓として政府は斷然その見る所を行うも亦一策なる可し何れにしても〓の一定こそ肝要なれとは屡ば紙上に〓べたる所なるが本年議會の期日も〓い〓い切〓して用意種々なる可き其中にも現内閣の議會に對する方針は如何と云うに今日の有樣にて責任内閣の覺悟は迚も望む可からずとすれば第二の〓心即ち議会の向背如何に拘わらずして政府は自から政府の見る所を行う一事なれども今の政府に於て斯くまで〓心ありや否や〓生の事實に徴して我輩の竊に疑う所なり然らば則ち如何す可きや聞く所に據れば現内閣は政治上に超然主義を執るものなりと云う所謂超然とは政黨に關係せず獨り高處に超然たる意味なる可し其案にして事實に行わるれば甚だ妙なれども從來の經驗は毎度その反對にして〓に超然の妙を呈せざるが如し即ち山縣内閣なり松方内閣なり其主義の如何を問へば何れも政黨に關係せずと明言したれども扨議塲の實際となれば非常の困難を感じ種々の手段を〓らして僅に彌〓したるのみならず前内閣の末路に至りては愈々その主義の不便を悟りたるものか政府黨組織の談は毎度漏れ聞く所にして彼の國民協會の組織の如き畢竟その邊の必要より成りたるものと認めざるを得ず即ち超然主義は從來の例に於て〓に其妙を現わしたることなけれども現内閣の總理は其主義の首唱者にして現に政府との國民協會との關係に就ても殊更に注意して嫌忌を〓くるが如き其小心の處こそ即ち其主義の〓〓ならんなれば議會に對する手心も亦この邊に在りと見て間〓いなかる可きか凡そ政治の〓用は主義其物よりも寧ろ其人の技倆如何に存することなれば現内閣の超然主義は必ずしも前内閣のものと同一〓す可きに非ずと雖も〓に責任内閣の覺悟なく又議會の向背に拘わらずして自から見る所を行う〓心も覺束なく左りとて議塲の多數を制する必要は欠く可からずと云う斯る困難の塲合に處する法は我輩の發見に苦しむ所なり然りと雖も政治の技倆は人々に異なり巧に其塲合に處するは即ち超然主義の妙用にして當局者には自から成算あることならん我輩は議會の開會を待て之を試驗せんとする者なり