「御用新聞」
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時事新報に掲載された「御用新聞」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
御用新聞
先頃政府の筋にて二三の御用新聞を合して一となし資力を充分にして大に氣〓を吐かしめんとする計畫あるよし風聞せしときに當り我輩は其計の非なる次第を陳じて若しも政府が充分の資力を一の新聞に〓ぎ價を廉にして新聞〓會に競爭せしむるときは從來御用新聞の不評判に引換えて或は賣高の多きを見ることもある可しと雖も全國の新聞紙は商賣上の正當防禦として悉く筆鋒を其一新聞に向け一時に四方より攻撃す可きが故に之に應ずることも容易ならざるのみか反對の聲は全國に響應して政府の政略上に妨も少なからざる可し或は學識筆力共に〓備して四方の敵を引受て之を壓倒する程の記者あれば甚だ妙なれども若しも實際に斯る技倆ある人物ならんには〓龍〓に池中の物に非ず永く政府に事えて御用を勤むるが如きは到底望む可からず要するに新聞利用策は今の政府の柄に合わぬ仕事なれば先づ以て思い止まる方、然る可しとの意味を〓べたることあり爾來その計畫は如何に成行しや知らざれども〓來御用新聞の論調を見るに甚だ低くして他と論爭するには苟も士人たるものゝ口にす可からざる罵詈惡口を常として毫も怪しまざるものゝ如し今の〓會に於ける政論の調子の高からざるは一般の弊なるが故に獨り御用新聞のみを咎む可きに非ざれども兎に角に政府の御用を以て任ずる以上は多少は謹む所もある可き筈なるに其擧動を見れば恰も物に〓えたる犬を一般にして動もすれば聲を放て人に〓付く醜態なきに非ず夫れも何か其筋の爲めにする所のものなれば止むを得ざる次第なれども漫に他の〓に喙を容れて〓ま〓ま他の反論に〓えば啻に罵詈惡口を逞くするのみならず時と塲合とをも顧みず國交際の機略に關する事にまで論及して却て當局者の〓惑を來すが如きは御用の任を〓るものと云わざるを得ず畢竟その記者輩が年少〓を解せず只管その事える所に盡さんとして漫に筆を弄すると又その新聞に〓故ある政府部内の才子輩が事の大體に〓ぜずして指揮の法その宜しきを得ざるとよりして斯る不體裁を演ずることならんと雖も政府の爲めに謀れば此種の新聞の爲に毫も利する所はなくして損する所大なるものあるが如し御用新聞の惡口雜言の如き識者に於ては唯一笑に付して止む可しと雖も世間一般の感〓に於ては〓して然るを得ず即ち其新聞紙の言う所は政府の意を代表するものと認むるが故に罵詈讒〓の言に至りては他人の口より出でたるものに比較して其感ずる所殊に深からざるを得ず如何となれば今の政府は〓會に無限の權力を有して官〓民卑の風を免れざる其上に新聞の利器を利用して他を叱咤せしむるとありては如何に温順の人と雖も感〓を害せざるを得ざればなり或は其罵詈讒〓は素より不可なれども今の政論の〓會に於ては一般の弊にして如何ともす可からずとの〓もあらんなれども我輩は尚お其不利を唱えざるを得ず德川幕府の末路に當り時の政府は〓士輩の亂暴を制すること能わずして却て其〓に傚い新徴組と名ふくる〓士の一〓を組織し〓士を以て〓士に當らしめ互に亂暴を逞くしたるよりして益々政府の威望を損したる事實は世人の今に記臆する所なる可し御用新聞にして果して政府の意を代表せしむるものならんには一般の弊〓に傚いて罵詈讒〓を事とするが如きは彼の新徴組の惡例を學ぶと同樣にして我輩の取らざる所なり故に今の政府の當局者に於て新聞を利用するが如きは到底無益の勞にして徒に煩累を來すのみなれば斷然關係を絶て政府の累を〓くるこそ策の最も得たるものならんと信ずる所なれども今日の政治上には御用新聞も一の機關にして容易に癈す可からずとならば責めては記者の人物を撰び又その監督の法をも改めて少しく論調を高め〓會に重きを成さしむること肝要なる可し罵詈讒〓を事として徒に世人の感〓を害するは政府の利に非ざればなり