「機密費」
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時事新報に掲載された「機密費」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
機密費
政黨の〓動は錢を要するものなり政務の調査と云い地方の〓〓と云い何れも然らざるなきは申す迄もなく黨略上の〓轉駈引に至りては人知れずに費すことも多く其〓動いよいよ活〓なれば隨て費用もいよいよ大ならざるを得ず即ち政黨に〓動費の必要なる所以なれども政府の機密費も亦これに異ならず例えば地方の政〓民〓の如き當該の有司よりして夫れ夫れの具申報告もある可しと雖も是れは表面の沙汰にして政機の局に當りて〓密に事を處するには〓面の詮索も必要にして内々に調査し内々に探訪せしむることもある可し對議會の策の如き殊に表裏の手段を要するものにして議員の去就向背を〓察し又は世論を導て人氣を取るが如き何れも必要の手段なる可し殊に外交政略に至りては〓面の駈引最も大切なり絛約改正と云い又は東洋問題と云い其機〓全く熟していよいよ表面の事實に現わるゝ迄の間は何れも當局機密の仕事にして其間に要する苦心盡力は尋常のものに非ず凡そ右の如き種類のものは政府の當局に欠く可からざる務にして之が爲めに費用を要すること少なからず即ち機密費の必要なる所以なり故に機密費は政府に欠く可からざるのみか多々ますます多きを厭わずと雖も他の經費の如く豫算に於て〓明することを得べからず如何となれば之を〓明して其用〓を分明ならしむれば機密の機密たる〓用を失して得る所なきに終る可ければなり機密費の性質は斯くの如きものにして其政府に欠く可からざるは政黨に〓動費の欠くに由るものにして政府の方針、百事に〓守を旨として事の〓怠を意とせざれば格別なれども若しも然らずして内外の急務に政府の分を盡さんとするときは其手段の活〓なれば活〓なるほど益々機密費の必要を感ぜざるを得ず今日の政治に百般の制度全〓すと云うと雖も一文の錢を費さずして十分の結果を得んとするは油を差さずして機關を〓轉せしめんとするが如し如何に〓巧なる構〓にても曾て用を爲さざるのみか時としては危險も亦計る可からず機密費は政機の油なりと知る可し聞く所に據れば明治政府には豫算上の定額外に機密に属する費額を備えて年來の使用に乏しきを告げざりしが前内閣のとき政治上に種々の事端多かりしが爲に費したる所少なかざる其上に本年の臨時總撰擧に際して大に支出の要を感じ殆んど〓底を叩て之に〓ぎたるも尚お足らずして他より借入れ或は一種微妙の筋より供給を仰ぎたるなどの風聞さえもありし程の次第なれども今は其供給の〓も全く〓されたる由なれば豫算の定額を外にして機密費と名づく可きものは皆無の姿なりと云う政府の内〓は我輩の知らざる所なれども若しも果して去る事實もあらんには當局の困難察せざるを得ず現に政府の爲す可き仕事は甚だ多し第一に對議會の策は如何す可きや或は現政府の方針は所謂超然主義にして議會の向背などに掛念して種々の手段を〓らすが如きは〓よしとせざる所なりと云わんか目下に差掛りたる外交問題の始末は如何、專ら平和を旨とするも又は〓取の方向を〓するも愈々政略を一定して之を事實に行わんとするには當局者の方寸に出でゝ人に知らしめざる〓々實々の手段は〓して尋常一樣のものに非ず數年前の有樣ならんには政府の筋に其貯なきにもせよ所謂紳士紳商の輩などの中には自から〓んで御用を勤むるものもありしならんなれども今日の世態は全く別にして假令へ他より促さるゝも斷然これを謝絶する程の次第なりと云へば是れも到底頼む可からざるが如し目前に爲す可き仕事は甚だ多くして之に要する費用の出處なしとあれば何事も餘儀なく思い止まる外はある可からず機密費空乏の風〓果して事實ならんには我輩は餘所ながら政府の爲めに其困難を察し入るものなり