「政治社會の天王山」
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時事新報に掲載された「政治社會の天王山」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。
本文
政治社會の天王山
我輩は昨日の紙上に於て官民雙方の人々が國會開設の一事に非常の望を繋ぎ互に功を急ぎたるこそ目下の紛爭を釀したる原因たることを〓べたり聊か其次第を論じて今後の事に及ばんに抑も國會開設の準備として政府の正に勉む可きことは種々樣々にして急中の急なるものも少なからざりしに實際に如何なる處置を施したるやと云うに政府は只管功を急ぎ明治二十三年の曉には萬端の手筈を整えて議員輩として毫も喙を容るゝ隙なかｒくぁしむるのみか西洋の先〓諸國に對しても〓色なき國會を開きて一時に内外の〓采を博せんと思いたることならん先づ第一に世界各國に比類なき完全なる憲法を編纂發布したるは今日に至りては論議の限りに非ざれども其前後に當り頻りに法律規則を製〓して恰も之を濫發したる其影響は果して如何、唯民間に煩文の煩を加えたるに〓ざるが如し日本の人民は維新以來新政の澤に〓いたるを一方ならず即ち地租の改正に引續き地租五厘の〓額の如き德川政府の時代に較ぶれば大に農民の負擔を輕くし又商工の輩にしても其生活渡世の難易は專制壓抑の封建時代に比して同日の談に非ざるに然るに其新政に對しては非常に苦〓多く漢學者流の語を假りて形容すれば人民殆んど其生に聊んぜずとも云う可き有樣を呈したり然らば其疾苦は何れに在りやと云えば我輩は明治政府煩文の弊に外ならざるを斷言するものなり左れば眞實に人民の利害を心に存して其疾苦を除かんとならば何は兎もあれ法律規則を簡易にして煩文の弊を去ることこそ政府の最も勉む可き處なるに然るに當局者の心事は此にあらずして彼にあり即ち政府の體面を粧いて國會の景色を〓にせんとの一念より煩文の上にますます人民の疾苦を〓したるに〓ぎざるのみ而して一方に於て其法律規則の繁多なるは〓ま〓ま以て議塲紛爭の種と爲りたるが如き功を急ぎ實を忘れたるものと評せられて一言の辨解なかる可し扨所謂民黨の擧動は如何と云うに其口にする所を聞けば政費〓〓と云い民力休養と云い只管人民の爲めに謀るが如くなれども今の民間の疾苦は政府の多費に在らず租税の〓重に在らず唯これ繁文の爲めに生を聊んぜざるものなれば苟も其事〓を知るものならんには何は兎もあれ之を除く手段第一にして斯くてこそ其功德も大なる可きに民黨の議員輩は果して此邊の事〓を知らざるか國會議塲の論〓は單に政費〓〓民力休養の問題のみにして曾て一言〓句も繁文除去の事に及びたるを聞かず一見甚だ迂〓なるが如くなれども畢竟その人々も等しく是れ功を急ぐ輩にして人民の疾苦を云々するよりも只管政府の當局者を苦しめ其立塲を失わしめて所謂責任内閣の實を擧げんとの下心に外ならざる可し自から人民代表の地位に在りながら眼前の疾苦を等閑に看〓して唯表面の功を急ぐとは之を目して人民の依托に負くものと云わざるを得ず實際の利害を忘却して人民の疾苦を不問に付したるものなり其所論の兎角空に馳せて〓に今日の紛爭を招きたるは素より其所にして罪は唯功を急ぎたる一事に在りと云う可し今や其紛爭も次第に甚だしくして底止する所を知らざる有樣なれども本來政治上に勢力を得ると然らざるとは人民多數の向背如何に外ならず此政治社會分目の時〓に當り人民疾苦の本源なる繁文の一事が官民の双方より取〓されて獨り其間に存立したるは恰も天王山を政治の戰塲に見ると同樣にして今後人民多數の歸向を得て最後の勝敗を〓する機會は繁文除去と名くる天王山を發見して之を占領するや否やに在り我輩は官民双方の孰れが先づ此一事を發言斷行するやを見て將來の勝敗を卜せんとするものなり若し夫れ繁文の爲めに人民が實際に感ずる疾苦に至りては毎度時事新報の紙上に記して讀者の熟知する所なれば今更ら反覆陳〓の要なしと雖も苟も今の分明〓會に時是金の理を知るものは繁文即疾苦の實を解して之を除くに躊躇せざる可きなり