「設計は改む可し事業は癈す可らず」

last updated: 2019-09-29

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時事新報に掲載された「設計は改む可し事業は癈す可らず」を文字に起こしたものです。画像はつぎのpdfに収録されています。

本文

設計は改む可し事業は癈す可らず

鐡〓問題も此程漸次く鐡〓會議の議決を經て今や衆議院特別委員の手にあり明二十日〓には其審査を了り次で衆議に付せらる可き都合なるより原案者は申すに及ばず鐡〓關係地方の議員及び〓動委員は夜を日に繼ぎて心力を勞し烟を揚げて奔走する者、沫を飛ばして〓説する者、粉々〓々たる其有樣は〓日の政府議會の衝突よりも賑かにして恰も熱〓の中に動揺するものゝ如し盖し其粉〓の源因は二點あり一は鐡〓敷設法の第一期線中に比較線なるものありて何れか取捨せざる可からざるより〓りたる爭い、一は敷設法の第一期線に第二期の或る線をも繰上げ再調査をなさんとする修正派と一旦定めたる〓り實行せんとする維持派との爭い即ち是れなり

比較線に對する我輩の所望は〓に〓べたる如く専ら經劑濟上の便利を主眼として軍用の目的などは全く度外に〓棄し國防は軍艦を製造して之に充つ可しと云うに在りしが政府の原案を見れば〓に此〓の行われざるのみか大半は軍用説に勝を制せられて爲めに費金も豫定額よりは更に二千餘萬圓の巨額を〓加せざる可からざるに至りたりとは唯呆然たる外なし抑も日本は富國に非ず國未だ富まざるものが巨大の資本を投下して之を鐡〓に固定せしむるは素より容易の談にあらず唯これ無ければ以て富を成すこと能わざるが故に他日の利益を期して暫く投資の苦痛を〓ぶ外なき次第は鐡〓を論ずる者の先ず第一に心得居る可き筈にあらずや此心を以てして扨比較線を比較したらば成る可く經濟上に便利にして成る可く敷設費の低廉なるを撰ぶべきは理の當然また他を問うに〓あらざる所なり左れば敷設法には第一期線工事の費用として六千萬圓と定めたれども我輩は〓も〓儉を主とし鐡〓は少々粗末にても實用をさえ爲せば則ち足れりと決心して只管これを當局者の〓意に依頼せしに一部の論者は歐洲諸國の軍用鐡〓を見て國〓の如何を問わず直に我國にも應用せんと欲し殊更に經濟に益なく費用に損ある線路を撰びて恰も大切なる國財を山に棄てる策を案じたるは殆んど其意の所在を知る可からず若しも一國を一家と見做し國財を私財と假定して設計したらば如何にして能く之を斷行するに堪え可けんや今その最も甚だしき一例を擧ぐれば奥〓線中の能代線と仁別線なり是れは法定の比較線には非ざれども能代線の海岸に〓きを危ぶみて軍用論者は仁別線なるものを新案し來り秋田より山間を經て鷹ノ〓に〓せんとせしが此海岸線と山間線とは經濟上〓に山間の大不利なるのみならず費用の點に於ては凡六百萬圓の大差あり同じく秋田より鷹ノ〓に至る〓中にして而かも十餘里程の短線路に看す看す凡六百萬圓を軍事の犠牲に供するとは實に堪え難き限りなれば鐡〓會議に於ても海岸線を取ることに決したりしに政府は何故にや此議決にも拘わらず衆議院へ提出したる原案には仁別線を採用したり試に思え六百萬圓の金は以て二百萬圓の軍艦三艘を〓り得可きにあらずや若し海岸線は軍事上危うしとならば此三艦を以て警護に備うるも不可なかる可きに然るに〓も強て深山幽谷を〓たんとするは奇も亦極れる次第にして讀者少しく此邊より推察を下だしたらば軍用論者の如何に國家經濟に淡泊なるやを知るに餘りある可し我輩は衆議院が斷じて此等の僻論を排し軍備の事は別に海防策を講ずることと定め鐡〓に於ては専ら商用を重しとして一切の比較線をば都て經濟的に取捨せんこと〓れ〓れも〓望に堪えざるなり

次に第二期線中より第一期に繰上げ再調査をなす可しとの修正論に就ては〓日の我紙上に於ても其朝〓暮改常なきを咎め且つ議會の信用の爲めに〓して斯るう輕擧なからんことを勸告せしが是れ亦鄙言の容れられずして修正の論勢漸く募りつゝある上に彼の比較線にして採用せられざる線路地方の議員及び〓動委員等は〓憾の餘り修正派と合併して先ず今年は着手すること能わざらしめ來期議會までに再興を圖らんとする色あるより其勢力〓して侮る可からずイヨイヨ議會に於て比較線の取捨〓定するときは次で〓る可き修正論に意外の賛成を生じて敷設法の〓命に關するやも測り難しという人〓故〓に偏すとは云いながら餘り無法の沙汰にして其眼中鐡〓の必要もなく議會の信用もなく〓た國家の經濟もなく唯地方の感〓あるのみとは今こそ狂熱に前後を忘れて奔走もすれ後に至りて心を〓めて考えたらば獨り自から裏恥かしき心地せざらんや勿論鐡〓敷設法は第三議會に於て〓々の際、〓〓したるものなれば自から種々不完全の廉も少なからざる可しと雖も更に之を修正せんとすれば又別の修正現れ結局申分なき法案は之を望むも〓して得可からず修正の名正しく理尤もなるに似たれども其實少しも効能なきは修正論者が今日の意氣〓を他人に移して考えたらば亦辨を俟たずして了解するに足ることなる可し今や政府と議會と衝突して纔に和協を装いたるものゝ天下の人民は皆目を〓てゝ雙方の信用價値を觀察しつゝあるに當り議會の修正論者が不幸にも〓を制して一年たりとも鐡〓事業を阻〓し爲めに〓論成すなきの〓を高めたらば知らず何を以て之を拭わんとするか何れの點より見ても修正再調査の事はユメ今に至りて心にも思う可からず左れば鐡〓問題は復た粉〓を要せざるなり唯比較線には商用の利害を専一として原案の設計を改め而して鐡〓事業は一日も早く工事に着手することを定む可きのみ